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資産の選び方

10_保険の正しい選び方②

就業不能リスクに備える保険の正しい選び方

「就業不能リスク」とは病気や事故、その他障害などによって仕事ができなくなって収入が減ってしまうリスクのことを指します。

まず短期(数日~1年程度)の「就業不能リスク」を考えてみます。

ここに下記のプロフィールの会社員がいます。

佐藤さん(35歳 仮名)
妻(34歳)、長男(3歳)
月収 30万円 生活費 月12万円 家賃12万円 貯蓄100万円

佐藤さんが2カ月(60日)間、入院を伴う病気をした場合には金銭的負担はどうなるでしょうか?
具体的に計算をしながら考えてみましょう。

実際に必要な費用を計算する前に、まず、健康保険で知っておきたい制度が2つあります。
①高額療養費制度
②傷病手当金

①高額療養費制度は健康保険の制度の一つです。重い病気などで病院等に長期入院したり、治療が長引く場合には、医療費の自己負担額が高額となります。そのため家計の負担を軽減できるように、一定の金額(自己負担限度額)を超えた部分が払い戻される制度です。
ただし、保険外併用療養費の差額部分や入院時食事療養費、入院時生活療養費の自己負担額は対象になりません。

年齢や所得によって差がありますが、1ヶ月の医療費の負担は8万円~16万円程度に収まるようになっています。

70歳未満の方 医療費の自己負担限度額(1ヶ月あたり)

②傷病手当金は、被保険者が病気やけがのために働くことができず、会社を休んだ日が連続して3日間あったうえで、4日目以降、休んだ日に対して支給されます。

ただし、休んだ期間について事業主から傷病手当金の額より多い報酬額の支給を受けた場合には、傷病手当金は支給されません。
そしてその支給額は、病気やけがで休んだ期間、一日につき、標準報酬日額の3分の2に相当する額となります。

つまり、病気や怪我で4日以上働けない場合には、健康保険で標準報酬日額の3分の2が補填されるということになります。
(最新情報は社会保険庁のWebサイトなどでご確認ください)

なお、傷病手当金制度は国民健康保険にはありませんので国民健康保険の被保険者の場合には、傷病手当金を考慮する必要はありません。

さて、具体的な計算の方法です。
この場合にも死亡保障同様に、保険の必要額を計算します。計算式は

①就業不能状態時に必要なお金 - ②その時に準備できているお金

となります。

①就業不能状態時に必要なお金

  • 入院費用(医療費、その他関連費用)
  • 家族の生活費用
  • 住宅費用

②そのときに準備できているお金

  • 公的保障(健康保険 特に高額療養費制度、傷病手当金)
  • 貯蓄

①就業不能状態時に必要なお金

入院費用
医療費は先程の高額療養費制度によって月額約8万円程度ですので、2か月の入院で約16万円になります。もし60日を超えて3カ月にわたるものであれば、24万円になる可能性もありますので、ここでは最大の24万円で考えます。

その他関連費用
実際に入院をすると、バス・タクシーなどの移動代、パジャマやタオルなどの身の回り費用等で10万円程度はかかるでしょう。

病院の食事代は一食260円の負担ですので
260円×3回×60日=4万6800円
となります。

家族の生活費
家族の生活費は、おそらく佐藤さんがいない分は減りますが、月10万円はかかるとして不在(2か月)で20万円かかります。

住宅費用
佐藤さんが不在でも、もちろん家賃支払いはありますので12万の2か月分24万円が必要です。

すると①就業不能状態時に必要なお金は総額

24万円+4万6,800円+20万円+24万円=72万6,800円

ということになります。

②準備できているお金

有給休暇
会社員の方は、病気で会社を休む場合には「有給休暇」を消化するのではないでしょうか?
この場合には、通常の給与がでます。
ここでは、有給休暇を10日消化するとして10万円の給与をもらえることにします。

傷病手当
先程見た通り、4日以上会社に通えない場合には、「傷病手当金」が出ます。
標準報酬月額の3分の2ですので、月20万円の支給で計算します。
有給休暇10日の間は、支給されませんので残り勤務日分で約30万円とします。

貯蓄
100万円あります。
すると、②準備できているお金としては

10万円+30万円+100万円=140万円

ですので、①就業不能状態時に必要なお金は十分にカバーしています。

つまり、佐藤さんの場合には、短期の「就業不能リスク」はあまり無いと言えそうです。
ですので一般的な「医療保険」や「がん保険」などの加入には疑問符が付きます。

また、下記は退院患者の平均入院日数です。
最近は、入院の短期化も進んでいますので、高齢者を除いては「長期入院」のケースもそれほど多くはありません。

傷病別の退院患者の平均在院日数

短期(60日)の「就業不能リスク」を見てみましたが、本当にリスクが高いのは長期(1年以上~)の「就業不能リスク」です。

特に先程の「傷病手当金」は最長で1年半の支給ですので、それ以上「就業不能状態」が続くようであれば、これは生活に大きな影響を与えると考えられます。

このリスクを回避するには、「長期所得補償保険」(LTD)という保険商品がありますのでそちらでカバーする方が良いでしょう。

いずれにしても、短期の「就業不能リスク」に備えるために「医療保険」や「がん保険」に加入するのはあまり合理的ではないということがお分かりいただけたのではないでしょうか。