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将来・老後の資産運用

12_老後の資産運用の考え方

老後にいくら必要なのか

医療技術の発展と長寿化に伴い、リタイア(退職)後の生活は、60歳の男性で約23年、女性で約28年と非常に長い時間ができるようになりました。
その一方で近年は、長寿化にともない老後の生活を不安に思われる方々も多くなってきています。
ここでは、老後に必要な資金を考えてみたいと思います。

老後に必要な資金は次の計算式で計算します。

 ①リタイア後の生活費(総額) - ②リタイア後の収入(公的年金等)
=③リタイア後の必要資金

①リタイア後の生活費
まず、リタイア後の生活費(月額)を予測します。
この際に、旅行や車の購入等、今後ある程度予定される支出も同時に検討します。

月額支出予測額×12カ月×リタイア時の平均余命=①リタイア後の生活費

例えば老後のゆとりある生活費は38.3万円(月額)と言われています。
(生命保険文化センター「生活保障と生活設計」平成19年度)

この場合、夫婦ともに60歳の世帯で必要な①リタイア後の生活費
38.3万円×12カ月×22.87年+20万円×12カ月×(28.46―22.87)年=約1億1,800万円
(夫婦2人の生活費)(妻一人の生活費)

という計算になります。

②リタイア後の収入
リタイア後の収入は主に公的年金に頼ることになると考えられます。
これに生命保険や個人年金などに加入していた場合には、その収入も加算します。

公的年金
自営業であれば、国民年金、サラリーマンであれば主に厚生年金という事になると思います。
平均では、国民年金(老齢基礎年金)が5.4万円、厚生年金(老齢厚生年金+老齢基礎年金)が15.8万円となっています。また、現在移行措置である厚生年金の部分年金は8.4万円です。(社会保険庁「平成19年度社会保険事業の概況」より)

よって先程の例を取り上げると


8.4万円×12カ月×5年(65歳まで)+15.8万円×12カ月×18.88年(65歳時の平均余命)
=約4,070万円


5.4万円×12カ月×23.97年(65歳時の平均余命)
+遺族年金(夫死亡後に公的年金(基礎年金を除く)の4分の3を受け取る:約83万円)×5年=約1,970万円

夫婦の公的年金収入は
約6,040万円になります。

よって、この事例での③リタイア後の必要資金は
①1億1,800万円-②6,040万円=③5,760万円

となります。
この場合60歳でリタイアをするとすれば5,760万円の準備が必要ということになります。

実際には、支出である生活費や住居費、収入である年金支給額などは個人差が大きいものですので、自分達のライフスタイルに合ったプランを立てることが重要になります。

介護費用について

60代の世代が直面しているのが、この「介護」リスクです。

また親世代が、祖父・祖母の介護を行っている様子を見て、将来自分の親の「介護」について不安を持っている若者世代も少なくありません。

実際には、「介護」にかかわる部分では公的な介護保険が存在するのですが、こちらも保険財源の話になると、厳しいものがあります。将来には保険料の引き上げや給付額の削減などが検討されることになるでしょう。

また、在宅の介護ではなく老人福祉施設での介護を希望される場合には、入居に伴う費用
が発生します。
こうした「介護」に伴う支出は現時点で把握していない人が多く、そのために不安に思っている高齢者が多いのです。
実際には、介護保険の利用実績をみると平成22年11月の実績で、一人あたりの保険費用額が187,400円です。利用者は1割の負担で保険額が9割であることを考えると月の負担額は約21,000円となります。

これは自宅で公的な介護を利用するケースです。もしも有料老人ホームの利用なども考えると、さらに多くの費用が必要となります。費用は施設によって大きな差があります。
主な施設の紹介と費用の目安です。どういう状態になればどの施設を利用するのかも含めて考えておきましょう。

介護保険三施設

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム・特養)  8~13万円

特別養護老人ホームは、65歳以上の者であって、身体上または精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とする者(いわゆるねたきり老人等)であって、居宅において適切な介護を受けることが困難な者を入所させる施設です。

【内訳の内容】
・介護保険の1割負担分 2.4~2.8万円
・居住費(滞在費。室料+光熱費) 1~6万円(※厚生労働省の基準費用額)
・食費 4.2万円(※厚生労働省の基準費用額)

介護老人保健施設(老健)  9~15万円

マヒやけがの症状が安定した高齢者を、原則として3ヶ月を限度に受け入れ、自宅での生活を可能にするためにリハビリテーションを行う施設。家に帰すことを目的にしているところが、特養との大きな違い。

【内訳の内容】
・介護保険の1割負担分 2.8~3.2万円
・居住費(滞在費。室料+光熱費) 1~6万円(※厚生労働省の基準費用額)
・食費 4.2万円(※厚生労働省の基準費用額)
・加算諸経費 1~2万円

介護療養型医療施設(療養病床)  11~18万円

介護療養型医療施設は、医療法で定められた療養病床を有し、療養上の管理や看護、医学的管理に基づき、介護はもちろんのこと、日常生活の世話、リハビリなどを行ないます。簡単に言えば、介護だけでなく医療も必要とする高齢者が利用する療養病床の施設のことです。しかし、この施設は厚生労働省が医療や看護をほとんど必要としない入所者が約半数を占めていること、2つの療養病床の機能が似ていることなどを理由に全廃していく方針です。

・介護保険の1割負担分 2.8~3.2万円
・居住費(滞在費。室料+光熱費) 1~6万円(※厚生労働省の基準費用額)
・食費 4.2万円(※厚生労働省の基準費用額)
・加算諸経費 1~2万円

(資料:「介護施設と介護保険施設 その種類と役割」)

施設サービス以外の介護保険サービスが使える介護施設

軽費老人ホーム(ケアハウス)  8~20万円

  • (注1)軽費老人ホームには、A型(食事付)・B型(食事無し)・ケアハウス型(食事付) がある。食事の有無などによっても支払う金額が異なってくる。
  • (注2)介護保険の「居宅サービス」「地域密着型サービス」が利用できる。1割負担分は要介護度によっても異なるが、月額にして2~2.5万円程度。
  • (注3)施設によっては、別途に入居一時金(保証金)がかかる場合がある。

グループホーム(認知症対応型共同生活介護施設)  8~15万円

  • (注1)居住費・食費・管理費を含んだ金額を、ホームに毎月一括で支払う。
  • (注2)介護保険の「地域密着型サービス」が利用できる。1割負担分は要介護度によっても異なるが、月額にして2.5~2.8万円程度。
  • (注3)施設によっては、別途に入居一時金(保証金)がかかる場合がある。

介護付有料老人ホーム  15~30万円

  • (注1)居住費・食費・管理費を含んだ金額を、ホームに毎月一括で支払う。
  • (注2)入居者は1割負担で介護保険の居宅サービスを利用できる。利用料は要介護度別で異なる。サービスを提供するのが外部事業者であっても、サービス利用料はホームに支払う。
  • (注3)別途、入居一時金がかかる場合がある。
    入居一時金は無料~数百万円まで、ホームの経営方針やグレードで異なる。
  • (注4)有料老人ホームには、介護付のほかに健康型・住宅型もある。
    健康型は介護付に比べ費用は低廉だが、住宅型では要介護度が悪化した場合など、介護付を上回る費用がかかることもあり得る。

(資料:「介護施設と介護保険施設 その種類と役割」)

介護については、介護する方も大きな負担になりますので、事前に介護が必要な事態になった場合にはどのようにするのかを家族間や親子間で十分に話し合っておくことが必要です。

運用をする必要性

老後の運用についても「資産運用の考え方」を学ぶことが必要です。
ただし、老後の資産運用は若い世代とは異なり
②人的資本とのバランス
を考える必要はなくなり、
①資産を分散しておくこと
③ライフプランとの連動性の
2点を中心に考えます。

たとえば、先程の事例をベースに資産運用をした場合を考えてみましょう。
先程の必要額の結論として60歳時で5,760万円の準備が必要だと結論づけましたが、これは全く運用を行わない場合の計算です。(ちなみに物価も上昇しない前提です)

この場合の5,760万円は、28年間で必要な金額で、
5,760万円÷28年÷12カ月=約17万円
本来は毎月の赤字を補てんする金額があれば良いという事になります。

それでは、60歳時点では幾らの金融資産が手元にあれば足りるのでしょうか?
これは年金現価計算というものを利用して計算できるのですが、
年金現価計算表

28年間の間に平均して
1%で運用すれば、約4,960万円
2%で運用すれば 約4,340万円
3%で運用すれば 約3,830万円
4%で運用すれば 約3,400万円

と60歳時で必要な金額は少なくなっていきます。

これは、リタイアメント後のキャッシュフローとのバランス判断が必要ですが、資産の一部を運用することで、準備に必要な額を軽減する事ができます。

また、老後20年以上の長い年月の間に、「インフレのリスク」や「円安のリスク」なども存在するので、資産の分散が必要という考え方は同様です。

不動産を所有している場合には、その不動産の資産価値をどのように利用するかも重要なポイントです。
死ぬまで自宅として利用するという考え方もありますし、金融資産が減ってきたら、不動産を売却して生活資金にあてるということも可能です。
最近ではリバースモーゲージと呼ばれる、生前に自宅に住みながら、自宅不動産を担保に銀行からお金を借りることも可能になってきました。
マネーライフプランの中では、老後に不動産をどう活用するかも検討する必要もあるのです。