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書評 「学力と幸福の経済学」(西村和雄、八木匡 編著)

UPDATE 2024.10.07

久しぶりの書評です。

西村和雄さんは、長年京都大学の経済学部の教授を務められていた方で

小屋も中学、高校生ぐらいから西村さんの経済学の本がとても分かりやすくて、

好んで読んでいました。

最近、西村和雄さんが、幸福をタイトルにしている本を出したという事で、

興味があり読んでみました。

今回の書評では、内容を簡潔にお伝えしたいと思います。

本書では、学力と卒業後の年収というものを細かく、

調査研究した内容の発表が中心となっています。

まずは、近年の学校教育、入試体系の中で、

数学の必要性が乏しくなってきているために、学生の数学能力が

著しく低下している状況が描かれています。

これは、西村さんが大学の現場で、

学生の数学力の低下に悩んだところもあり、調査したようです。

小屋も受験で数学はありましたが、決して得意とは言えず、耳の痛いところです。

 

【年収と数学】

次に、大学受験で数学を受験した人と、受験時に数学が無かった人で比較をし、

卒業後の年収が数学受験組の方が高いという事を明らかにします。

特に、英語、理科、数学が得意であった人ほど年収が高いことが明らかになります。

一方で社会や国語が得意な人は、年収が高いところにはつながっていません。

 

【親の学歴と子の年収】

親の学歴が高いかどうかが、子供の教育に与える影響が

大きいというのはよく知られていますが

本書では、その結果子供の年収が高いかどうかに踏み込んで調査をしています。

また親が数学を受験しているか、子供の教育で数学を重視しているかどうかという事も

子どもの年収に影響を与えることを明らかにしていきます。

 

【理系と文系】

理系と文系では、理系学部出身者の方が全体的には

高所得であることを明らかにしています

特に物理に能力が高かった人が所得が高い傾向があります。

 

【躾と年収】

親から受けた躾と年収の関係性を調べています

「うそをついてはいけない」「他人に親切にする」「ルールを守る」「勉強をする」

という躾が年収に影響を与えるという事がわかります

 

【子育てスタイルと幸福】

ここでは、親の子供とのかかわり方が

支援型:高自立、中自立、高信頼、高関心、高時間共有

である家庭が、所得、前向き思考、安心感、学歴のいずれにおいても

最も高い達成度を示すことがわかります。

子育てを行う場合には、常に子供を見守りながら、

親子間での信頼を形成し、親子で時間を共有しながら、自立を促すことが重要となります。

 

【子供を伸ばす褒め方、しかり方】

ここでは、子供の頃に親からどのように声を掛けられたかということが、

子どもにどのような影響を与えるのかを調査しています。

結果として、親に叱られたときに「次は頑張ろうね」と励まされたことを

記憶している人は、「どうしてできないの」と叱られた人よりも、

成人後の自己決定度と安心感が高かった。

「罰を与える」ことは不安感を増すという意味で、良い結果を生まなかった。

親に褒められた場合、「頑張ったね」と努力の過程を認められた人の

自己決定度と安心感がともに最も高く、「褒美をもらった」人の

自己決定度が最も低かった。

また「えらいね」という褒め方は、「頑張ったね」と比べると、

自己決定度が低くなるようです。

これは、子育てスタイルの支援型が最も有効であることと

似た結果が生まれているとも言えます。

 

【幸福の調査】

ここでは、様々な角度から人間の幸福感について調査しています。

所得、学歴、健康、人間関係、自己決定を説明変数として、分析を行うと、

結果、年齢との関係では、幸福感が中年期で落ち込む「U字形曲線」を描き、

所得との関係では、所得が増加するにつれて、主観的幸福感が増加するが、

所得の増加率ほどには主観的幸福感は増加せず、

その変化率の比も1,100万円で最大となることが分かります

また、幸福感を決定する要因として、健康、人間関係に次ぐ変数としては、

所得や学歴よりも自己決定が強い影響を与えることが分かりました。

自分で人生の選択をすることで、選択する行動への動機づけが高まる。

そして満足度も高まる。

そのことが幸福度を高めることにつながっていると推察されます。

支援型の子育てで自立を育てることが、幸福感の育成にもつながることがわかります。

 

【得意能力と職業】

ここでは、従事している職業と空間認知能力、イメージ能力、

言語能力との関係を調べています。

芸術系や教育・研究系のクリエーティブな専門職に従事する人の

空間認知能力とイメージ能力が高く、言語能力が低いこと、

教育・研究系専門職に就く人の空間認知能力や言語能力が高いことが分かった。

また、仕事で使われる能力については、立体感覚、創造力、

統計等のデータ解析能力などは空間認知能力およびイメージ能力の両方と、

論理的思考とIT技術などは空間認知能力および言語能力の両方と、

統計的に有意な正の関係性をもっている。

学習科目に関する能力では、空間認知能力、イメージ能力、

言語能力の高さの組み合わせで5つのグループに分けて、

科目の得意・不得意を調べています。

すべての科目で空間認知能力が最も得意度を高めているが、

特に、理科と数学ではその効果が大きかった。

国語と英語では、グループによる差が小さく、

イメージ能力や言語能力が理科や数学よりも得意度を高めることに

寄与していることが分かった。

 

【感想】

私の周囲でも、子育てに熱心で、また悩んでいる親はとても多いものだと感じています。

本書は、様々な教育要素について、統計的な手法を用いながら分析しています。

その結論として、子育てスタイルは「支援型」で関わり、

学問としては数学や理科に興味を持たせてあげることが

子どもの幸福感には近づくことが示されています。

こうしたこれまでの日本での教育の事実について、

広く親世代に普及していく事は、教育に関心の高い親の多い現代では

必要なことではないかと思い、今回ご紹介させていただきました。