山本潤さんと考える
「ポートフォリオ戦略で考える、長期投資の大切さ」-
前編

「本当の意味での投資」は、長い目線で運用すること

--コロンビア大学院修了。哲学・工学・理学の修士号を取得。外資系投資顧問で日本株式ファンドマネジャーとして20年間運用に携わる。日本株の成長株投資を得意とし、現在は、株式会社ダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチにて定額運用サービスを提供している山本潤さん。個人世帯や法人オーナーからの相談を中心に、ライフプランのコンサルティングを行う小屋さん。

今回は、山本潤さんが4月に出版された「初心者でも勝率99%の株ポートフォリオ戦略」を元に、ポートフォリオをベースにして長期目線で株式運用を行うことの大切さについて語っていただきます。

小屋:今日はよろしくお願いいたします。山本さんが今年4月に出版された『初心者でも勝率99%の株ポートフォリオ戦略』(かんき出版)を読ませていただいて、感激しました。というのは、僕自身がクライアントに対して伝えたいと思っていることが、かなり網羅的に整理されて書かれているな、と感じたからです。山本さんがこの本を書こうと思われたきっかけは、何だったのでしょうか?

山本潤さん(以下、山本):ありがとうございます。今の私の仕事のメインは、個人の投資家さんたちにポートフォリオベースでの運用を助言することです。それでお客さまにもポートフォリオについて学んでもらいたいのですが、書店で株式投資の本を眺めてみたら、ポートフォリオで運用を勧める本はほとんど見当たらなかったんですね。

小屋:確かに、個人投資家向けにポートフォリオを解説する本はあまり見ないですね。

山本:はい、機関投資家向けにはあるのですが、内容が一般向けではありません。それで、ふつうの個人投資家さんたちが「資産をポートフォリオで運用してみよう」と思えるものを書きたかったんです。じつは一年前に別の本を共著で出したのですが、読者からの感想を見ていて、「一般の人にとって株式投資のイメージって、『上がりそうな株を買って売ったらおしまい』というものなんだな」と感じたんです。それって、本当の意味での「投資」ではありませんよね。そのことをぜひ伝えたいと思ったのが今回の本の執筆動機でした。

小屋:昨年出された『1%の人が知っている99%勝てる株が見つかる本』ですね。あの本では、「良い会社を見つけて、その株を長期で保有することのメリット」が丁寧に解説されていました。

山本:はい、そのとおりです。ところがあの本の主張とは逆に、私に相談に来るお客さんの多くは、「いつどの株を買って、どのタイミングで売ればいいか教えてほしい」と言うんです。皆さんその時々の株価をチェックして、いわゆる「回転売買」をしているわけです。しかし、回転売買は長期的に見ると、だいたい上手くいかないんですよ。ひとつの株に集中投資することになりがちですし、リスクヘッジの点でも問題が大きい。見ていると無駄な売買を一生懸命にやっている人が多い印象があります。余計な売買をせずに「株価は下がるときもある」と受け入れる覚悟が必要なんです。そのためにはポートフォリオで株を運用することが大切なので、本を通じて「みなさん、覚悟を持ちましょうね」と伝えたかったというのも執筆の理由です(笑)。

小屋:投資家の覚悟とは、つまり「下がることを許容する」ということですか。

山本:そうですね。小屋さんの会社のお客さまは、「本業が忙しくて自分では売買ができないから運用をお願いしたい」という人が多いと思います。そういう方は、投資に対してゆったりと構えていると思うんです。でも、私のお客さんにはいわゆる「トレーダー」タイプの人が多くて、今回の新型コロナウィルスの流行のようなことが起こると、「暴落はいつ?」「二番底はいつ?」といった具合に「下がったらどうしよう」という心配で頭がいっぱいになっちゃうんです。株は下がるものですから、それを受け入れて、ポートフォリオ戦略に基づいて運用していれば、「全体が20%下がったら、これとこれを入れ替えよう」という具合に、対策が立てられる。その具体的な考え方と対策を、今回の本には書きました。

投資は未来をつくる術。お金に対して正しい見識を持つ。

小屋:なるほど、よくわかりました。山本さんもよくコラムにも書かれてますが、日本人全体の投資に対する「誤解」の問題がある気がします。ふつうに育った日本人は、マネーリテラシー教育を受ける機会がほぼありません。そのせいか、投資という行為自体にネガティブな印象を持っている人が多いと感じます。投資って、「人にお金を融通して有意義に使ってもらうこと」ですから、「人助け」でもあるのに、なぜか「金で金を稼ぐいけないこと」みたいな悪いイメージがありますよね。

山本:おっしゃるとおり、一般的な人からすると「株」って、ニュースで報道される日経平均株価の値動きのイメージですよね。毎日上がったり下がったりして、売り買いするものだと考えられています。でも株式って本当はひんぱんに売買するものじゃないんですよ。むしろ株式市場で取引されている上場企業が例外的な存在で、応援したい企業に出資して、その成長を見守るのが本来の姿です。株式投資は基本的に、キャピタルゲインやキャピタルロスに一喜一憂するものではなくて、配当(インカムゲイン)を時間をかけて増やしてくものなんですね。株主にとってのフリーキャッシュフローである配当を中心に考えるのが本来の株式のあり方だったはずなのに、最近は「いかにキャピタルロスを避けるか」という心配に労力を使っている人があまりに多い。そうではなく、インカムゲインを中心に投資を考えるのが、ポートフォリオ運用の基本的な考え方です。よく例に出すんですが、トヨタという会社の母体になった豊田自動織機の株をもしも80年前に買って、そのまま持ち続けていたら、現時点で利回りは5万%ぐらいになってるわけです。それでわかるように、「企業が描いた事業の将来ビジョン」そのものを応援するのが、本来の株主なんですよ。安定した株主が沢山いれば、銀行もその企業を応援してくれますから、企業にとって安定株主がいる意義はとても大きいんです。

小屋:一般の人に刷り込まれている、投資に対する博打みたいなイメージは、何とかして変えていかなければならないと感じます。

山本:世界で一番成功している投資家のウォーレン・バフェットは「5年ぐらいマーケットがクローズしたとしても、影響を受けない会社にしか投資しない」という方針で、ずっと運用を続けています。バフェットのように長期保有を基本にして、配当中心に投資をするのがもともとの株式投資のあり方なんですよね。

小屋:アメリカも日本も、昔の投資の本を読むと「配当が長期的にどれぐらい得られるかで判断しろ」と書いてあります。

山本:長期的に企業の将来性を判断するには、やはり「見識」が必要なんです。日本の投資が歪んだのは、こう言っては何ですが「質の悪い投資家」が増えすぎてしまったことが原因と感じてます。昔と今の「大学生」のレベルの差と似てますね。昔は大学に進学できるのは、地域でトップレベルの学力を備えたエリート候補の学生だけでした。だから大学生といえば、尊敬の対象だったわけですが、いまはほぼ誰でも大学に入れますよね。株式市場における株主も同じで、一昔前はそれなりの見識、教養を備えていることが投資家なら当たり前だったんです。ところがネット証券ができて、誰でも口座が開設できて信用取引するようになったことで、大衆化が進んでしまった。「投資家の数が増えることは良いことだ」と市場関係者の多くが考えたからですが、その結果、投資家の平均レベルを大きく下げることになってしまったんです。ニュースが理解できず、英語の情報も読めなければ、グローバル化した現代で正確な投資判断はできません。それに株式投資って、1年ぐらいの短期間で結果を出すより、10年、20年先に結果を出すほうが簡単なんですよ。「世の中はこうなっていくだろうし、この会社は正しい努力をしているから、いずれ伸びていくはずだ」という長期的な予測は、ある程度必然性をもって見通せますからね。そもそもどんな分野の人でも、努力したからといって1年や2年で結果が出るのってまれじゃないですか。会社も人間の組織である以上、努力の成果が形になって現れるまでには、数年〜10数年かかるのが普通なんですよ。毎日の仕事でコツコツ努力しても、実るには時間がかかります。それがデイトレーディングをしている人は、1月先どころか、数時間単位で見ているわけです。明日のマーケットが上がるか下がるかなんて、企業の努力とか仕事とはなんの関係もない、サイコロを転がした結果の予測と同じで博打です。そんなことに神経をすり減らすのは、本当に意味がないと思いますね。

公開日:2020年7月21日

後編へつづく