山崎元さんと考える
「善良なFPは、あなたの資産を正しく導く。」-前編

ベストセラー「難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!」(文響社)やテレビの情報番組への出演など、投資運用の初心者に向けたわかりやすい解説に定評のある経済評論家の山崎元さん。
東京大学経済学部卒業後、三菱商事、野村投資信託、住友信託銀行、メリルリンチ証券など計12社を渡り歩き、現在は楽天証券経済研究所客員研究員、国家公務員の共済年金を運用する国家公務員共済組合連合会(通称「KKR」)の運用委員も務めるなど、ファンドマネージャー、アナリスト、証券マンといった面々もアドバイスを求めるプロフェッショナルでもあります。

機関投資家、個人投資家のどちらの実情もよく知る山崎さんは、経済評論家として独立した当初、ファイナンシャル・プランナーに対して否定的な見方をしていたそうです。しかし、ここ10年ほどでその印象は変化。現在は、小屋さんも講師を務める「FPの学校」というプロジェクトにも携わっています。

対談は「良いファイナンシャル・プランナーとは?」「個人投資家の高齢化問題」などをテーマに進んでいきました。

ファイナンシャル・プランナーの良し悪しを見抜くには?

小屋:「FPの学校」を始めるとき、山崎さんから「昔はファイナンシャル・プランナーのことはあんまりよく思ってなかった」「そこから少しずつ良いファイナンシャル・プランナーのことは応援したいと思うようになった」と聞きました。どういう流れで印象が変わっていったんですか?

山崎:経済評論家として独立してから20年くらい一貫して、「機関投資家向けの運用の考え方やノウハウを個人の資産運用に当てはめたときどうなるか」「どんな方法が個人の資産運用にとって最適なのか」といったことを考え、正しくて、面白いことを親切に伝えようとしてきました。
ところが、実際に取り組んでみると、個人向けの運用は非常に難しいものだったんですね。
たとえば、1兆円の年金企業年金の運用と1000万円の個人資産の運用。どっちが難しいかというと、条件あんまり変わらないんですよ。
年金基金は額こそ大きいですが、お金の入り方と出方のパターンがはっきりしていて安定しています。一方、個人資産は額が少なくても本人にとってとても切実で大切なお金ですし、運用中にリストラや病気、遺産相続など、さまざまなイレギュラーな出来事が起こります。
私は80年代、90年代と投資信託や年金運用のファンドマネージャーの仕事をし、大きなお金を動かしてきましたが、個人資産の運用は簡単ではないな……という印象を受けました。
そういった立場からすると、独立当初はファイナンシャル・プランナーのしているアドバイスが金融理論の常識からはズレたひどいものに見えたわけです。
「個人も運用について考えましょう」「個人資産の運用は簡単です」といった入門書を出す人がけっこういて、それが書けるのは個人の資産運用の理論的な体系を理解していないから。言葉は悪いですが、「そこらへんのチンピラファイナンシャル・プランナーなんぞに、簡単に書けるような話じゃないんだぞ」と。

小屋:2000年前後ですね。

山崎:たとえば、「お金に色をつけて管理して、この色のお金は長期の運用で、この色のお金は不安の解消のために保険に……」とか、「ドルコスト平均法は、リスクが小さくなり、有利」とか。個人向けにファイナンシャル・プランナーが書く本には、読者にどれだけ無駄をさせたら気が済むんだといった非常識な情報がごろごろしていました。
しかも、そういった人たちがお金の専門家として、新聞や雑誌のインタビューに答えている。これはけしからんことだな……と思いましたし、いい加減なことやっている人たちが幅を利かせている状況には張り合いも感じました。それがファイナンシャル・プランナーであっても、政府であっても、学者であっても。「ちょっとそれ違うんじゃない?」と切り込んでいくことができますから。
「彼らは排除すべき存在だ」というのが初期値で、個人に資産運用の簡便な方法を届けなければいけなというのが自分の目的になりました。

小屋:それが変化していったのは、何かきっかけがあったんですか?

山崎:個人に適した資産運用の方法を伝えることを目的として情報を発信し始め、何度かバージョンを改訂して、ようやく形が整ってきたのが10年目くらいです。しかし、1人の力には限界がありますよね。
もし、やりたいことをひとつやらせてあげると言われたら、NHKのEテレで「お金の教室」をやりたいですけど、とにかく継続的に広く、多くの人に伝えたい。そう考えたとき、個人に適した資産運用の方法を正しく理解して、広める手伝いをしてくれる人が必要だと思うようになったわけです。
また、一方で小屋さんのような独立系のファイナンシャル・プランナーとの出会いもあり、きちんとしたお金の専門家と言える人たちもいる。だったら、そういう良いファイナンシャル・プランナーを応援し、協力しながら、悪い商品、個人を騙すような金融機関のやり方を排除していったらいいと考えるようになりました。

小屋:圧倒的に手が足りないから、借りていこう。そのためにも、良いファイナンシャル・プランナーの育成もしていこう、と

山崎:そうですね。結局、今も保険会社や運用会社の説明を鵜呑みにして、個人にアドバイスをするような形で商品を売り、手数料を稼ぐ悪いファイナンシャル・プランナーはたくさんいます。そういう商売の邪魔をしてやろうという善意の愉快犯。そんな気分がありますよ。

小屋:個人がファイナンシャル・プランナーの良し悪しを見抜くためのポイントは? と聞かれたら、どうアドバイスされますか?

山崎:あなたにその商品を売ることによって手数料収入を得る可能性のあるファイナンシャル・プランナーは、最低だと思ってください。保険会社の社員がファイナンシャル・プランナーの資格を取るのは止めないけれども、ファイナンシャル・プランナーの看板を出し、相談に乗った上で、自分の勧める保険を契約させ、手数料を取るのは利益相反ですから。
それから正しい金融知識を持ったファイナンシャル・プランナーかどうかをチェックするのも重要です。これを見分けるのはそう難しいことではありません。
たとえば、「日本株のアクティブファンドで、面白いファンドはありますか?」と聞いてみてください。そこで、すぐに具体的なファンド名が出てきたら、その人に相談するのはやめておきましょう。

小屋:いいファンドを事前に選ぶことはできないというのは、金融的な常識ですもんね。

山崎:加えて、アクティブファンドは手数料が高く、長期的に見ると運用成績はインデックスファンドを下回っていることがほとんど。つまり、個人がアクティブファンドに投資することは、経済合理的ではないわけです。
もちろん、ファンとして投資するのはかまいません。「私は○○投信の思想に惹かれた」「ファンドマネージャーの○○さんの考えに共感する」と投資するのは自由です。でも、それをアドバイザーの立場であるファイナンシャル・プランナーがやり、しかも、手数料を取ったらダメですよね。
ですから、「ドルコスト平均法について、どう思います?」「アクティブファンドで、お勧めはありますか?」と意地悪なリトマス試験紙になるような質問をしてみて、相手の反応を見てみましょう。

「食える、良いファイナンシャル・プランナー」になるには?

小屋:一般の人がファイナンシャル・プランナーに相談するメリットについてはどう思われますか?

山崎:じつは良いファイナンシャル・プランナーに相談して正しいアドバイスを受けることができれば、かかった相談料の元がすぐに取れるんですよ。
たとえば、退職金が出て2000万円、3000万円なりの資産のある人が、対面営業の証券会社や預金口座のある銀行なりに資産運用の相談に行ってしまうと、まず確実に向こう側にとって都合のいい=手数料の高い商品を勧められます。そのまま契約し、仮に運用成績が良かったとしても、間違いなく年間10万円以上の手数料を払うことになるわけです。
その点、ファイナンシャル・プランナーへの相談料が1回2万円なら、3回相談に行ったとしても6万円。手数料のほとんどかからない個人に適した商品を提案してもらい、運用を始めれば、年間に支払う手数料の額の差だけで相談料は取り戻すことができます。
ですから、いくら相談料が無料でも金融機関の社員にアドバイスを受けるよりも、正しい知識があり、ビジネス的にニュートラルな立場のファイナンシャル・プランナーにフィーを払って相談に乗ってもらうほうがいいのは間違いありません。
銀行の退職金運用無料相談会みたいなところに行ってしまったら、カモが煮えるまで帰してもらえませんから。金融機関の窓口で営業マンから大切に扱われると一時的な優越感を得られるかもしれませんが、昔から言うように「タダより怖いものはない」のです。

小屋:実感として、良いファイナンシャル・プランナーは増えてきていますか?

山崎:ポツリポツリと増えてきていると思います。ただ、独立性を保つには、商品を紹介した手数料ではなく、相談料や運用成績に対する成果報酬でビジネスを成り立たせなければいけません。現時点ではその壁は高く、正しくて十分な知識を持ち、利益相反のないクリーンなビジネスをして、しかし、食えているファイナンシャル・プランナーは少数派という印象です。

小屋:率直に「食える、良いファイナンシャル・プランナー」になるには、何が必要でしょう?

山崎:ひとつには、太い客を持つことですよね。資産数十億円の人にアドバイスの価値を認めてもらえば、受け取れる対価は大きくなります。私の知っているファイナンシャル・プランナーに成功したベンチャー企業の創業者のアドバイザーになっている人がいますが、そんなふうに相談料の単価を上げ、スペシャルなコンサルティングをしていく道がありますね。
ただし、そうなると必要な知識は金融、投資運用にとどまらず、不動産や運用など、大きく広がっていきます。
たとえば、「プライベートジェットが欲しいんだけど、どう思う?」と聞かれ、「それはこういうファイナンスで、こう手続きをして、ここから買えばいいですよ」と。もはやファイナンシャル・プランナーというよりも、善良なプライベートバンカーのような立場ですよね。
もうひとつは、ものすごく多くの人を相手にしていくこと。ネット経由、アプリ経由で、安価な相談料でアドバイスをし、より深い相談については対面で……というような形ですよね。
いずれにしても、ファイナンシャル・プランナーは税理士や弁護士のように独占業務を持っているわけではありません。一人ひとりが自分をどうマーケティングしていくかについて、正面から取り組んでいく必要があります。
私としては「FPの学校」の監修もそうですが、今後も良いファイナンシャル・プランナーが増えていくための協力は惜しまず、仲間を増やしていきたいと考えています。

後編へつづく