糀屋総一朗さんに聞く
「幸せを感じるお金の使い方」-後編

価値のあるものにちゃんと値付けをし、高く売る

小屋:私はエリアリノベーションファンドの立ち上げから近くで見てきたけど、ここに糀屋さんのお金に対する考え方が強く反映されていると思っています。改めてファンドの話を聞かせてもらえますか?

糀屋:もちろん。エリアリノベーションファンドは、僕が一番力を入れている取り組みです。
簡単に言えば、古い不動産をリノベーションしてバリューアップするやり方の地方版で、2年前から福岡県宗像市の大島という離島に投資しています。

小屋:大島を選んだのはどうしてだったんですか?

糀屋:僕は福岡で、ある複合施設のリノベーションをやったことがあって、そのとき知り合ったデザイナーさんにエリアリノベーションファンドの概要を話したら、「だったら、宗像市の大島に面白い物件あるから見に来て」と言われたんですね。そして、実際に見たら一発で気に入ったのが始まり。それまで大島のことを知らず、そのとき行ったのが初めてでした。

小屋:その物件があの宿になっているんですね。

糀屋:1泊10万円の宿「MINAWA」。でも、エリアリノベーションファンドの対象は不動産だけではなく、大島には潜在的な魅力がたくさんあるので、エリア全体をよくするものに投資しています。例えば、今、準備をしていて12月に販売を開始するのが、ジビエのペットフードです。

小屋:ジビエのペットフード?

糀屋:大島にはイノシシがいるんですけど、人口が減っていることもあって、山を降りて人里で悪さをするんですよ。島の人たちも困っていて、じゃあ、犬向けのジビエの高級ペットフードにしよう、と。イノシシの数も減るし、島の物産にもなるし、と。売価は50g1000円。高いでしょう?

小屋:たしかに。

糀屋:これもエリアリノベーションファンドで大事にしていることで、田舎で安いものを売りたくないんですよ。地元の人は値段を安くしすぎて売っているから。それでは地元の人が疲弊してしまうし、価値のあるものにはちゃんと値付けしなきゃいけない。質を良くして、高く売る。

小屋:そこにメンタルブロックは働きませんか?

糀屋:最初に「1泊10万の宿を大島でやります」って言ったら、島の人たちからすっごく止められました。「アホか」とも言われました。「この島の1泊の上限は8000円くらいやぞ」と。
だから、「まあ、そうですよね。でも、やってみたいんです」と言って進めていって、1泊、2泊と予約が入り始めたら、見る目が変わってきました。宿泊してくるお客さんには必ず「島で、たくさんお金を使ってください!」と伝えています。大島は漁師の島で、港近くの店ではびっくりするほどおいしいクエ鍋が手頃な値段で食べられますから。そうやって来訪した人たちが、島のお店に行ってお金を使ってくれることもあって、島の人たちのマインドもちょっとずつ変化しています。
今後も僕の手掛ける商品やサービスは全部高いかもしれない。でも、そうするのもうちのファンドの使命かなと思っています。

小屋:特別な体験で、お金を持ったお客さんを呼び込む。

糀屋:原石を磨いて、その地域に注目してもらって、人が来ることでお金が落ちる。大島で言えば、人口がどんどん減っていて島民は600人くらいですが、5年後には半分になるという予測もあります。そうすると、インフラの維持ができなくなっていくんですね。医療機関、上下水道施設、生活道路の改修……マクロで見ると似たようなことが日本中で起きています。
そんななか、僕は初めて大島に行ったとき、潜在的にすばらしいものを持っていると思ったし、このロケーションであれば1泊10万円で出してもプロモーション次第でいけるという方向性が見えたんです。エリアリノベーションファンドは、そういう日本の魅力ある場所の価値を上げていくことを目的としています。僕らが投資することで地域の価値が増し、経済が回り、インフラも維持できて、元々住んでいる人たちのも暮らしも楽になっていく。しかも、ファンドとしては、そもそもの土地、建物の価格が安いので高いリターンを見込むことができます。
大島はプロトタイプで、今後これをいい形で出口まで仕上げていかなきゃいけない。それができたら、全国的に展開していこうと。その準備も始めています。

 

体験を組み合わせたファイナンシャル教育を

小屋:幸せになるお金の使い方の話に紐付けると、エリアリノベーションファンドは実際、場所やモノがあるから投資体験としてわかりやすい気がします。

糀屋:株主特典のように「投資してくれたら、泊まれます」と「MINAWA」での宿泊を体験してもらうのもいいですし、実際に大島に行って島の人たちと触れ合い、食事を楽しみ、そこで使ったお金がどう役立っていくのかを知ることは、本人の幸福度を上げてくれるかもしれない。

小屋:私も一度、「MINAWA」に泊まりましたけど、おいしかったですよ。島の食事。

糀屋:そうでしょう。そうやって島のお店にお金が落ちることによって、島の人たちの意識も変わっていきます。お金を使うこと、受け取ることが回り回って島の将来を一緒に作っていくことにつながっていく。そんな感覚が得られる投資体験。
僕らのエリアリノベーションファンドに限らず、小屋さんのクライアントさんにはそんな体験ができる使い方を経験してもらうことが大事になってくると思います。

小屋:思想だけ聞いても腑に落ちないものが、自分で追体験することで「ああこういうことか」と腹落ちする。体験を組み合わせたファイナンシャル教育。そんなイメージですね。

糀屋:そう言えば、マイクロファイナンスをやっているNPOも協力者向けに投資先の国へのツアーをやっていました。たしか、行き先はスリランカだったけど、自分たちの投資が現地でどう使われているかを目にすることで、意識が変わっていくみたいです。

小屋:エリアリノベーションファンドも、そうやって広げていきますか。うちのクライアントさんもそうだけど、僕と似たようなビジネスやっているメンバーも巻き込んで体験ツアーをやりましょう。

糀屋:今、自分がやっていることはこれまでになく手応えがあるから、本気で広げていきたいんですよね。よろしくお願いします。

小屋:エリアリノベーションファンドの活動を広げていくのが、当面、取り組もうと思っていることですか?

糀屋:そうですね。でも、ベンチャー企業への投資ももっとやりたいですね。今、投資している先が今期、来年と上場予定なので、将来的にちょっとお金ができます。それを自分のエリアリノベーションファンドにも投資しつつ、ベンチャー企業にも。でも、こうして話していて改めて思うのが、やっぱり僕は「手元にお金を貯めておきたい」「出ていくのが怖い」というマインドがよくわからないみたいです。

小屋:今日、久しぶりにゆっくり話していて、糀屋さんの物事の取り組み方が少し変わった気がします。40代になったからですか?

糀屋:じつは最近、僕いろいろ諦めているんですよ。どういうことかと言うと、もう自分の得意なことしかやらない方がいいな、と。

小屋:と言うと?

糀屋:例えば、好きだけど、やってみたらすごく下手なことってあるじゃないですか。身近なところでは、僕は植物や花が好きだから家に花壇を作るんですよ。でも、客観的に見ると下手で、変な感じの仕上がりになってしまう。失敗したなと思って植栽屋さんに頼んだら、はるかに短時間できれいになったんですよね。
こういうことって世の中に結構あるなと思っていて、好きなのに下手、そもそも苦手なのに真面目に頑張ってしまう、欠点を直そうと努力する……。すべていい取り組みのようで、じつは幸福度を下げてしまうわけです。
僕、根が真面目だから自分の不得意なことをちゃんとやってパーフェクトな感じにしていきたいという気持ちがあったんですけど、それを手放しました。自分の得意なことだけ見て、欠点はもういいやと諦めよう、苦手は誰かに任せよう、と。

小屋:得意なことに集中しよう、と。

糀屋:そういう発想になりました。例えば、浮かんだアイデアを実装まで持っていくこと、仕組み化していくことは得意なので、僕はこれだけやっていけばいいやと思っているんです。不得意なことは潔く諦めるマインドになりました。

小屋:結果、糀屋さんの幸福度は?

糀屋:上がっていると思います。1人で完結させようとせず、いろんな人とコラボして、それぞれの得意を集めることで物事がうまくいき始める。そんな経験が増えてきたので、今後はもっと自分の思想、取り組んでいることをコンテンツとして発信することをやっていこうと思っています。
賛同してくれる人が増えれば増えるほど、エリアリノベーションファンドの影響力も大きくなっていきますから。

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