占部伸一郎さんと考える
「人的資本」の高め方-後編

法人の持つ「お金」と個人の家計の「お金」は種類が違う?

小屋:もう1つ、この機会に占部さんに聞きたいと思ったのは、お金の見え方の話です。

占部:お金の見え方?

小屋:僕はファイナンシャルプランナーとして、個人向けの資産運用のコンサルティングをしていますが、そこで見ているのは、個人の持っている「お金」です。一方、占部さんは法人の持っている「お金」を見て、「これをどう使うか?」の意思決定に関わる機会が多いと思います。

占部:そうですね。ある企業の成長のための中期計画を立てる場合であれば、「今ある手許のお金をどの分野に投資をすると一番いいか……」といったことを一緒に考えていきますね。すごく簡単に言えば、この分野については増やして、既存のこちらは減らそう、と。そのときは「お金」というよりも「成長のための資源」を配分している感覚ですね。また、経営状態の悪い会社を見るときは、現場で「お金は会社の血液です」という言い方もします。お金がきちんと回らないと組織が壊死していくので、キャッシュは大事ですよね、と。

小屋:なるほど。やっぱりコンサルタントとして法人にある「お金」を見る目線と、占部さん個人として家計の「お金」を見る目線は全然違いますか?

占部:それは全然違いますね。

小屋:法人のお金は仕事として客観的に見ていて、個人のお金はもっと主観的というか、感情が混じってくるというか。そんな感覚ですか?

占部:一番違うのは、目的ですよね。法人はいかにお金を増やし、利益を上げ、次の投資に回すか。その流れをいかにスムーズなものにするかがベースなので。設定した目的に向かっていかに合理的に進めていくかが大事になります。もちろん、その過程で人を動かさなければならないので、合理性だけではダメですが、目指しているゴールはすっきりとわかりやすいわけです。
これが個人の場合、目的が定まりにくいですよね。「とにかく金を増やしたい」という人もいるかもしれないし、無理してもいいクルマを買いたいかもしれないし、趣味に使いたいかもしれないし、合理性ではない要素が入り込んできます。

小屋:無駄遣いだとしても、それで高い効用が得られるならいい! というような。

占部:企業では合意が得られない使い方も、個人は本人や家族が納得していればいいとなりますよね。それでいいじゃんっていう。まあ、オーナー企業の場合、社長はそういうお金の使い方もできますけど……。

小屋:オーナー社長が会社の中で、明らかに自分個人の効用や感情を優先して消費しようとしているとき、コンサルタントは止めるんですか?

占部:「合理的じゃないですよ」とは言えるけど、「やめなさい」とは言えないですよ。そこはオーナーの自由なので。オーナー企業で上場していなければ、個人の延長といえば個人の延長。事業にプラスにはならないけど、「立派な自社ビルが欲しい」となれば、「オススメはしませんが……」となりますよね。

小屋:そこは僕が個人をコンサルしていても同じ話になります。そんなに高い物を買わなくてもいいんじゃない? と思うけど、しょうがない、と。

占部:一緒だと思いますよ。

小屋:それが上場して公の株主がいる立場だと、そのスタンスは取りにくいわけですよね。

占部:もちろん、そうだと思います。僕らに仕事を依頼してくる社長さんたちはきちんと会社としての、経営者としての課題意識を持って、相応のコストをかけてお客さんになってくださるので、そういうケースは少ないですね。自社の成長のため、社会のために、いかに利益を上げてお金を増やし、次の投資に回すかがベースにはあります。

※ 効用:経済学で、消費者が財やサービスを消費することによって得る主観的な満足の度合い(小学館 デジタル大辞泉より)

 

地位財を持つことに喜びを感じると、消費は天井知らずにエスカレートしていく

小屋:占部さんが自分の「お金」を見るときは、どんなイメージですか? バランス良く使えている感覚ですか? 

占部:またまた難しい質問ですね(笑)。正直、世の中的には恵まれているとは思いますが、すごくお金のかかる趣味もないので、美味しいものを食べに行くときくらいは好きに使って大丈夫だろう、と。そんな感覚ですね。

小屋:なるほど。個人として効用が高い食事には自由に使い、その他にお金のかかる趣味もないので毎月きちんと残っていくという感じですか?

占部:そうですね。

小屋:お金のかかる趣味があって、効用の得られるもののハードルが高いと大変になっていきそうですね。

占部:お金があるから、いいクルマをいっぱい買いたい、クルーザーを買いたいとなっていくと、大変でしょうね。

小屋:まあ、それが虚栄心ではなく、本人の幸福感を本当に高めてくれるなら……という気もしますが。

占部:虚栄心が満たされるのも効用と言えば、効用なんでしょうからね。本人にとっては。でも、その方向に行ってしまうと天井がないですよね。上には上がいくらでもいるから(笑)。どんどんエスカレートしていって、最後は満たされないイメージです。

小屋:業界では、他人との比較によって満足が得られる財を「地位財」、他人との比較ではなく満足が得られる財を「非地位財」と言ったりしますけどね。

占部:見栄を追っちゃう感覚が自分にもあることはあるけど、そんなに強くないんですよね。

小屋:そんな占部さんが僕のところに資産運用の相談に来てくれたのは、何かきっかけがあってのことだったんですか?

占部:ひとつ明確にあるのは、ライフステージが変わったんですよね。結婚して子供ができて、もう自分だけのお金じゃないなと思ったとき、家計のこと、保険のこと、資産運用のことも考えないとな、と。
でも、詳しくはないし……というタイミングで小屋さんが独立したんですよ。それで、最初は生命保険のことを相談したんじゃないかな。
仕事柄、生命保険会社が滅茶苦茶利益率の高いビジネスをやっているのは知っていたので、できれば真っ当な商品を選びたい。でも、情報量はすごくあるけど、実際にどれがいいのかはよくわからない。比較検討する時間も取れない。それで、何がいいの? と。最初はそれでした。

小屋:そうでしたね。

占部:資産運用的なことをしなくては……とは、なんとなく考えていたんですよね。働きながら貯まっていったお金はそのままメガバンクの普通預金口座にずっとあって。そのままにしておくのもまずいのかなと思って、ネット証券に口座を作って、個別株でも買ってみようか……と考えたものの、いまいち興味が持てない。
周りに個別株をいっぱい買って、日々ヤフーファイナンスを見ている人がいて、ああいう向き合い方はしたくないしな、と。そんな状況でしたね。

小屋:投資、運用の一歩目が踏み出せない。

占部:一応、知識としては『金持ち父さん、貧乏父さん』くらいは読んでいて、貯金のまま眠らせておくことは機会損失になっているんだろうと思っていたし、今後長い人生の間、資産運用に関わらず生きていくこともないだろうから、どこかのタイミングで扉を開けなきゃいけないんだろう……でも、扉の開け方がわからない、というところで、小屋さんに相談したわけです。

 

投資に関心はある、でも一歩踏み出せない人の抱えている悩みとは?

小屋:投資運用に関心がないわけでもなく、でも一歩目が踏み出せない一番の理由はどこにあると思います?

占部:情報収集のコストですよね。何から始めたらいいのか、商品の良し悪しはどう判断したらいいのか、自分に合っている運用方法なのかどうか。資産運用をしてみようと思うと、いろいろな疑問が浮かびます。
強い興味があれば、自力で調べて乗り越えられるんでしょうけど、そこまで関心が高くない場合、情報収集に時間が使えず、納得感がないから実際の行動に移れないんだと思います。

小屋:占部さんはその後、何人か似たような状況の友人を紹介してくれましたよね。資産運用のアドバイザーを使うメリット、人に勧めてもいいなと思えたのは、どういう部分ですか?

占部:情報収集をした上で、きちんとアドバイスしてくれるアドバイザーの存在は助かるというのが1つ。そして、一度インプットした情報も時間の経過とともに変わっていくわけで、それを常にアップデートしてくれるのは、知的好奇心が刺激されるというか。僕の場合、自分から積極的に動かないけど、投資、運用、金融の世界がどうなっていくのかという興味はあって。自分の資産が増える、増えないよりも、業界の事情がわかっていくことに価値を感じるのかもしれない。
アドバイザーを頼むコストはかかるけど、最新の情報が入ること、業界の事情に触れられること、理解が進むことが自分にとってプラスになるなと思ったんですよね。
あと、ファイナンシャルプランナーさんもめちゃくちゃ玉石混交な世界だと思うんですよ。特定の商品を売って手数料を儲けるみたいな人もいるでしょうし、そんななかで信頼できる人が身近にいるわけだから、それはラッキーなこと。だから、周りの「資産運用に興味があるけど……」という人にも紹介したいな、と。

小屋:ありがとうございます。

占部:これは僕らコンサルタントと同じだけど、経営者の悩みは難しいことばかりです。簡単に結論が出ることなら、相談しませんからね。依頼を受けたコンサルタントは数ヶ月間、本気で考えて、世の中に出ている情報を集め尽くして、提案します。でも、正直、そこまでしなくてもなんかそれっぽい資料は作れますし、それっぽい提案もできてしまうわけです。ただ、精度の差は確実に見抜かれてしまいます。このコンサルタントは最後の最後まで考え尽くした上で提案してくれているな、と。それが信頼感につながるわけですよね。
決して「こんにちは。初めまして、相談に乗りましょうか」で仕事がとれる世界ではありません。以前、一緒に仕事したことがあって「あのとき、あれだけやってくれたよね」という実績があり、今回は違うテーマだけど、少なくとも彼の中のベストは尽くしてくれるはずだ。そういう安心感はめちゃくちゃ大事で、資産運用のアドバイスを受ける側がどんなアドバイザーを信頼するかも、構造としては同じ。それがあれば、1回の相談から3年、5年、10年という長い付き合いになっていくんだと思います。

※当記事の対談は新型コロナウイルス感染防止に十分配慮しながら行っております。また、撮影時のみマスクを外すご協力をいただきました。

 

対談者プロフィール

  • 占部 伸一郎

    占部 伸一郎

    株式会社コーポレイトディレクション
    エグゼクティブコンサルタント

    東京大学経済学部卒。三菱商事への出向経験あり。コーポレイトディレクションにおいて、テレコムネット関係、流通小売分野、不動産分野などの幅広い分野において、中期計画の策定、新規事業の立上げ、事業再生支援、組織改革などに取り組んでいる。近年は、日本企業の中国を中心とするアジア展開戦略や、マネジメント体制の再構築に取り組んでいる。

  • 小屋 洋一 (聞き手)

    小屋 洋一(聞き手)

    株式会社マネーライフプランニング 代表取締役

    1977年宮崎県生まれ、東京育ち。2001年慶應義塾大学経済学部を卒業し、総合リース会社に入社。中小企業融資を担当した後、
    2004年不動産流通業を行うベンチャー企業に転職。営業、営業企画等を経験し、2008年に退職。
    同年にAFPを取得後、独立し、個人富裕層のアドバイスに特化した株式会社マネーライフプランニングを設立。
    2010年にCFP®を取得し、現在に至る。

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