レポート

トピックス

あなたの資産に忍び寄る「デジタル赤字」──レポートが示す“海外投資”の重要性

UPDATE 2025.05.21

今回は、日本の産業と国際収支の未来を占う、

非常に示唆に富んだレポートをご紹介します。

その名も『デジタル経済レポート ― データに飲み込まれる世界、聖域なきデジタル市場の生存戦略』(経済産業省 PIVOTプロジェクト、2025年4月)。(PDFファイル)

経済産業省の若手官僚が作成したレポートで、

内容は今後の日本の産業構造を考えるうえでも面白い内容になっていました。

 

本レポートのキーワードは「デジタル赤字」。

これは、日本が海外のデジタルサービスに支払う金額が、

受け取る金額を大きく上回っていることを意味します。

2024年にはその赤字が6.85兆円に達し、

今後10年で最大45兆円規模になる可能性もあると推計されています。

 

なぜこの数字が重要か。

それは、日本のデジタル産業での競争力の低下が、

この「デジタル赤字」という形で表面化しているからです。

 

ソフトウェアが主役、ハードは“添え物”の時代

 

レポートによると、世界で売れる物は「ハードウェアが主役」ではありません。

私たちがスマホを買うのは端末の性能ではなく、

そこで使うアプリケーションの体験価値のためです。

自動車も同様で、今や買われているのは

「自動運転やサービスとしての移動体験」なのです。

だから、テスラやBYDなどハードとソフトを一体化して販売するメーカーが

強くなっているのです。

 

そしてそのソフトウェアを動かすのに必要となってくるのが“データ”です。

今や「データがソフトウェアを支配する」時代に突入しつつあり、

価値の源泉はデータを保有することになってきています。

 

日本が「デジタルの収入が弱い」理由とは?

 

国内のIT企業の主力はSI(システムインテグレーション)などの労働集約型事業。

一方、高利益・高成長のアプリケーション、

ミドルウェア、クラウドといった資本・知識集約型の分野では、

GoogleやMicrosoftなどの外資がシェアを握っています。

 

要するに、きちんと「稼げる領域」に日本企業が参入できていないため、

海外に払いっぱなしの構造になっているのです。これがデジタル赤字の正体です。

 

投資家にとっての3つの示唆

 

では、私たち個人投資家はこれをどう受け止めるべきでしょうか?

レポートから見えてくる、資産運用戦略への示唆は次の3つです。

 

1. 海外の成長企業に投資する視点を持つ

グローバル市場では、米国・中国・イスラエルなどがソフトウェア企業を

次々に成長させています。

日本国内企業がこれから勝ち筋を掴むには時間がかかる可能性が高く、

すでに競争優位を築いている海外企業への分散投資は、有力な選択肢になります。

 

2. 為替リスクを“逆手に取る”

円安局面では、ドル建て資産の評価益が発生します。

実際、日本のデジタル赤字も、円建てで支払われる対価が為替の影響で

さらに膨らむことを意味しています。

つまり、私たちも外貨建ての資産を保有することで、

円の購買力低下に備えるヘッジが可能です。

 

3. デジタル経済の“プラットフォーマー”に注目

プラットフォーム型ビジネス(Google、Amazon、Tencentなど)は、

レポートでも「最も収益性が高く、競争優位性が強いモデル」とされています。

国内でもこれに近づける新興企業が出てくる可能性はありますが、

当面はすでに確立された米国・中国の覇者を軸に投資判断をするのが堅実です。

 

日本企業にとっても勝ち筋はある

 

もちろん、レポートは悲観的な内容だけではありません。

日本にはロボティクスや無線通信といったハード技術で強みのある領域があり、

そこを起点としたアプリケーション化を進めることによって、

再び巻き返す余地もあります。

 

また、AI革命が進む中で、

計算資源インフラや量子技術への投資が官民連携で進めば、

グローバル市場に出ていく企業も増えてくるでしょう。

 

最後に:あなたの資産を守るために

 

日本は今、「デジタル敗戦」とも呼ぶべき劣勢な局面にあります。

ただし、投資の世界では、

こうした構造的な歪みは新たな収益機会の源泉でもあります。

 

自身の資産を、日本国内だけではなく、

成長するグローバル市場にも確実にポートフォリオを広げる。

この視点こそ、10年後に真の意味で「守りながら増やす」資産運用に

繋がるのではないでしょうか。