レポート

セミナー報告

「地方で頑張る人材に投資する」という“糀屋式”地方投資

UPDATE 2022.07.02

2022年5月27日金曜日19時~21時
NATULUCK銀座 room B(東京都中央区銀座2-7-18 銀座貿易ビル)にて開催いたしました第7回「幸せの5つの要素企画」セミナーの活動報告です。

地方投資の意義とおもしろさ

僕が地方投資事業の道を邁進することになったきっかけは、いまから3年くらい前、知り合いのデザイナーから「いい投資物件がある」と大島を紹介されたことです。現地に足を運んでみて環境の素晴らしさにとても感動し、2019年、宿泊施設MINAWAの開発と運営を始めました。
ただ、いざ始めてみると、地方でのビジネスは当初の想定よりもはるかに労力のかかる事業だということが分かってきました。大島での事業を全国に展開していく想定もあったのですが、このさき同じことをあと何件もできるだろうかと限界を感じるうちに、考え方が切り替わりました。
本日のテーマでもある、「自分で事業を展開するのではなく、地方で頑張るローカルエリートを育て、投資をしていく」という考え方です。いまでは、この考え方で日本の各地域に同時多発的に投資をするほうが、地方への影響力も大きいと確信しています。
地方ビジネスは難しいとはいえ、その難しさに余りある価値が地方には潜んでいます。土地や建物がとても安いので事業を始めやすいですし、何より、自然環境、食文化、お祭りなど豊かな観光資源の存在は大きいでしょう。MINAWAもまさに血反吐を吐く思いで試行錯誤してきましたが、いまは最低で一泊10万円するこの宿にたくさんの方が訪れるようになりました。彼らが島にお金を落としてくれるし、MINAWAのスタッフという雇用も生みだせて、島民一人当たりのGDPは3年で1.5%上昇する見込みです。MINAWAによる経済的なインパクトも社会的な影響力も体感しています。地方投資のおもしろさにも気づきました。

大島で見出した地方投資の方法論

本題に入る前に、まず「地域の衰退」について押さえていただきたいと思います。僕は「地方の衰退」を、「一人当たり所得が減少している」、そして「魅力的な就業環境や機会が不在である」と定義づけています。なぜこのような衰退が起きているのでしょうか。
僕なりの考えですが、日本の地方の大きな問題は、モノやサービスが安売りされ、所得は上がらない一方で、補助金がどんどん流れてくるということです。僕はこのような状況を「旧態依然としたパラサイト体質の蔓延」と説明しています。「新しいことを始めて利益を上げなくてもやっていける」という甘えがあり、「旧来のままでいいじゃないか」という空気が漂っています。消費者がほしいと思うモノやサービスを真剣に作って適正な価格で売ろうという発想も出てきません。しかも、コストが価格に反映されないということは、利益を出すために労働環境がブラックにならざるを得ないということです。これでは地方で働きたいという人も、地方のモノやサービスを利用したいという人も現れません。さらに、高齢化もあって新しいことを始めようとする人はどんどん減っています。ですから、地方で事業を展開する上では、地域資源を高単価で売り出していくという観点が重要だと思います。これが地域のブランディングや住民の所得向上にもつながります。
僕が実践している地方投資のポイントは三つです。
まず、「ハイリターンの再投資」。地元に眠っている魅力などの地方資源から、実際にキャッシュフローを生み出す「稼げる」資産を作り、生じた利益で地域に再投資をしていくのです。こうすることによって地域循環経済圏の拡充が図れます。
二つめは、冒頭でも少しふれた、「ローカルエリートを育成し、投資する」ことです。地方にある旧態依然な価値観や複雑な人間関係は、内側からの力だけで変えようとしても、旧来の価値観の延長にしかなりません。まったく違った価値観で外側からアクションを起こすことが必要だと思っています。そのための専門の高度人材が、ローカルエリートです。ローカルエリートは、自身の意思決定に基づいて地方ビジネスを作り上げていくことができ、一方では、地域の抱える問題やややこしい人間関係は地域住民と一緒になって解決していくことができる――これを「経済的視点と政策的視点の両方を持ち合わせている」人材と言っています。エリートといっても、上から目線で「変えてやろう」とするのではなく、「地元の人たちの意志や自由は損なわない」という意識が重要だと思っています。
三つめは、これが一番難しいのですが、「将来に残る地域資産と自立的自治を実現する」。別の言い方をすれば、地域の価値観を変えるということです。実は、地方で事業を成り立たせること自体はそれほど難しくありません。でも、地域のパラサイト体質を変えていくのは、中長期的スパンでもなかなか難しいです。地方分権の推進など、政治的な条件も重ならないと成立しないとも思っています。しかしながら、地域の自立を視野に入れつつ一つめと二つめのポイントをどんどん実践していくことが、現実的な地域事業のあり方だと考えています。

地域で利益を上げ、その利益を地域で循環させる

例えば外資系が地方に入ってビジネスを展開しても、利益は地域外にどんどん流出してしまい、雇用された地元民の所得は上がりません。実は、地元の経済はスカスカなのです。そうではなく、地域でちゃんとお金が回る仕組みを作っていくべきだというのが、わがローカルツーリズム社の考えです。そのためには、利益を地域に還元できるように再投資していくことが非常に重要です。「投資家の利益が一番大きい」というのがファンドの哲学ですから、投資家が得た利益こそ地域に再投資しほしいですし、それが、僕がいま大島で取り組んでいることです。
僕が運営しているエリア・リノベーション・ファンドには、4つのポイントがあります。まず、価値観を共有する人からのファンディングであるということ。次に、単純に投資をするというより、クリエイティブとビジネスデザインにこだわって、そのバックアップもきちんと行っていること。三つめは、高単価ビジネスへの投資を目指すものであることで、最後はローカルエリートへの投資で多発的なスモールビジネスの展開をしていることです。ターゲット領域としては、市場規模の大きいところにひも付いたビジネスへの投資を目指しており、現在は「観光」、「エネルギー」、「地域通貨」、「ヘルスケア」の4つです。
ファンドの具体的な仕組みについても簡単にご説明します。まず、対象となる不動産事業を運営する合同会社を設立します。投資家さんには、この合同会社に資本金や社債を契約のかたちで出資していただきます。不動産を所有している会社のオーナーの1人ということになります。資本金を出資していただくので、利益が出たときには配当が受けられます。リターンに関しては、まずインカムゲインを利回り5%でお支払いします。キャピタルゲインが発生した場合は、15%はインセンティブフィーとして当社がいただき、残りを皆さまの出資割合に応じて配分いたします。こちらは利回り20%を目標数値に事業を運営していきたいと考えています。投資金額は500万円ですが、僕の地域事業への考えに賛同してくださった上で出資をされたい、ということであれば、ご相談には応じたいと考えています。配当日は一年ごとで、想定運用期間は24カ月、この期間を保有していただければ一括償還もいたします。ただ、さきにも申し上げたとおり、できれば再投資をお願いしたいです。
さて、最後に私が常に心に留めている言葉をご紹介します。「もっとも進歩した国民とは、いつでも多くを航海した国民なのだ」、アメリカの思想家ラルフ・ウォルドー・エマーソンの言葉です。地方投資においても、安全安心なところに浸かっているだけでは見えないものがあると思います。リスクをとって航海を乗り越えることで達成できるものがあるのです。