レポート

セミナー報告

支援にアクセスできない人をもっと救いたい!――沖縄の地から届ける『命の授業』

UPDATE 2022.05.17

2022年2月22日火曜日19時~21時
NATULUCK銀座 room B(東京都中央区銀座2-7-18 銀座貿易ビル)にて開催いたしました第6回「幸せの5つの要素企画」セミナーの活動報告です。

今回のゲストは、沖縄県うるま市で助産院「ばぶばぶ」を経営するHISAKOさんとMARKさんです。お二人はたくさんのママさんたちに寄り添うかたわらで、ブログやYouTubeを通して結婚、妊娠、出産、育児、夫婦関係などの役立つ情報を発信。また、ママに役立つグッズの企画・販売もしています。さらに全国の学校を出張授業で回り、助産師としての経験や性と命に関する知識を、笑いあり涙あり感動ありのコントも交えて若い世代に届けています。

 

悲しい結婚、妊娠をする女性を沖縄から出したくない

もともと大阪で活動していたHISAKOさんとMARKさん。鹿児島県・徳之島でのある女子中学生との出会いが、二人を沖縄移住へと突き動かしました。その子の母親は30歳のシングルマザーで、その子を含めて5人の子どもを食べさせていくために夜の仕事をしていました。長女であるその女の子は、学校に通いながら妹や弟の世話をしなければいけません。彼女はもともと不登校になりがちでした。朝になると母親は酔って帰ってきて、時には男性を家に連れ込んだりもしています。14歳のその子もまた、さびしさから28歳の妻子持ちの男性と付き合っていました。女の子は14歳にして肩にその男性の名前を入れ墨で彫っていて、これにはHISAKOさんも本当に驚いたと言います。
「彼女は賢い子で、このままでは自分の人生がダメになると分かっているんです。でも、どうしていいかわからなくてすごく葛藤していました。島の人たちは母親が元凶だと言うけれど、お母さんが安心して5人を育てていける環境を作って支援してあげたら、こんなことにはならないんじゃないかと思いました。お母さんが子どもの待つ家に男性を次々と連れ込むのは問題だけど、優しくしてくれる男性にすがってしまう気持ちは分かります。人間って弱いんです」。
徳之島は都会に比べると閉鎖的な地域で、女性は性や結婚の知識を勉強する機会もないまま若くして妊娠します。一方で、男性は島の名物である闘牛に没頭し、それが原因で問題を抱える夫婦も多いといいます。若年妊娠や若年離婚が多く、それも14歳や15歳という”若年”です。女子生徒との出会い、そして徳之島の現状から、HISAKOさんは「徳之島に呼ばれていると感じた」そうです。
「私は10人の子を産んで離婚することになり、シングルマザーとなって死にものぐるいで働いてきた経験があります。子どもたちを元夫と私それぞれの元にバラバラにしてしまって、家族が離れているつらさも分かります。世の中に助産師がいっぱいいても、私のような経験をくぐり抜けて女性の人生に寄り添ってあげられる助産師って、なかなかいないでしょう」。
HISAKOさんの提案にMARKさんは即承諾。5年ほどの準備期間を経て、最終的にはよりアクセスが良い沖縄に移住することを決めたのでした。沖縄で二人が選んだ場所は、社会問題が一番根深いといわれる沖縄市とうるま市です。
その決断の背後には、「沖縄からつらい妊娠・出産をするママさんたちを出したくない」という思いがありました。二人が出張授業をボランティアで行うのも同じような理由です。子どもの人生に関わる内容なのに資金の問題で学校側が自分たちを呼べないのは悔しい、とHISAKOさんは言います。
「小学生や中学生のうちから、『あなたたちはここに存在するだけで素敵なんだよ、評価されなくてもいいんだよ、あなたがいてくれることが私はうれしいよ』ということを、少しずつ伝えていきたいんです。彼ら彼女らが将来、偽りの優しさにすがってしまうような事態を食い止めたいです」。

YouTubeを通して届けたい思い

HISAKOさんの大阪時代の助産院には、育児相談だけでなく人生相談や医療職を目指している学生もたくさん訪ねてきました。しかし、HISAKOさんが対応できたのはせいぜい1日で20人。HISAKOさんはその現状を不甲斐なく感じます。HISAKOさんがもう一つ気になっていたのは、そもそも助産院に来ることができない女性たちのことでした。助産院に来るという選択肢があることさえ分からず、お金も知識もなく、一人で赤ちゃんと向き合って、誰にも助けを求められない女性たちです。お金がなくても支援を受ける権利は誰にでもある、彼女たちを無料でも助けてあげられないか――葛藤していたHISAKOさんにMARKさんが提案したのはYouTubeでした。「お金がなくても、その女性たちもスマートフォンは持っているんです。スマートフォンはライフラインだから。YouTubeを通してそこにHISAKOの声が届くでしょう?」。

中絶で傷つくのは女性だけじゃない

講演では、中絶についても紹介がありました。中絶は、固く閉じている子宮口を器具を使って力ずくで開き、そこに胎児を吸引するための器具を挿入して行われます(吸引法)。その際に子宮の壁から胎児をはがすのですが、当然、胎児の命は子宮の中で生きようとしていますから、簡単にははがれません。そこで、まず子宮内で器具を使って胎児をばらばらにするのです。また、成長が進んだ胎児の場合は母体に陣痛を起こさせて出産という形で取り出します。中には肺が少しでき上がっていて産声のようなものを挙げようとする胎児もいるそうです。母親の心情を思えば、その声を聞かせることはできません。だから、胎児は生まれた瞬間に口と鼻をふさがれるのです。これらが中絶の現場で起きていることだとHISAKOさんは悲痛な面持ちで説明しました。
「中絶手術の実際って、意外と知られていないんですよ。妊娠しそうな行為に走る前に、彼ら彼女らを思いとどまらせる一つの要因になれば、という思いで中高生には話しています。併せて緊急避妊薬の説明もします。悲しい妊娠を避けるためにも絶対に覚えておいてほしいです」。
HISAKOさんが助産師として出会ったある16歳の女の子は、「なぜ避妊せずにセックスしたの?」というHISAKOさんの質問に、「彼氏のことが好きで、拒否したら彼氏に嫌われるかもしれないと思った」と答えたそうです。HISAKOさんが続けて相手のどこが好きなのかを尋ねると、「優しいところ」と返ってきたのですが、その“優しい彼氏”は、「助産師さん、手術終わりましたけど、何日ぐらいしたらまたヤれますか?」とHISAKOさんに質問したというのです。
「本当の優しさとは何か、女の子たちはよく考えてほしい。断っても『一回くらいええやろ』と言ったりキレたりする男なら、こちらから別れて。『一回ぐらいいいか……』とセックスした結果、中絶に来るパターンはすごく多いです。男の子は、『女の子には心がある』ということを理解してください。彼女がどんな気持ちなのかを考えて行動できないのは、本当に最低のクズです。大人でも夫婦でもそうです。中絶するということは、女性だけでなく男性も周りの人たちも、とてもとても傷つくことです。しっかり現実を知って、命ってなんだろう、人を大切にするってどういうことだろう。そういうことをよく考えられる人になってください」。

女の子にも男の子にもこころはある

HISAKOさんによると、子育てでイライラしている女性たちからの相談を深掘りしていくと、まず間違いなく根底には夫婦間の問題があることが見えてきます。例えば、男女それぞれのストレス発散に関して、女性は話を聞いてほしい、そして問題解決よりもとにかく共感してほしい。男性は一人の世界に没頭したいという違いがあるのです。MARKさんは、「(男女の心理の違いを知らないことが)離婚率を高めている一番の原因です」と続けます。男性が何気なく放った一言で、女性がとても傷つくことはたくさんあります。恋人や夫婦関係でなくても、社会人として生きていく上で異性の心理を知っておいて損はありません。MARKさんはHISAKOさんと出会ってから、こういう違いに気づいたそうです。夫婦の仲が良ければ、男は仕事で力を発揮できる。自分の経験からそう確信している、と話してくれました。「外で仕事を頑張ると言って家を無視していても、ある程度の成長で終わってしまいます。一生懸命、妻に心を向けている男性なら、社会貢献も大きな形でできるんじゃないかと思います」。

「みんなを笑顔にしたい」

MARKさんはもともと、アジアを中心にアメリカでも店舗を展開するアパレル会社の経営者です。一時は高額納税者に名を連ねるほどの勢いがありました。一方で、多国籍な社員を動かしながら時差をまたいでビジネスをすること、大きな利益の裏側で損も大きくなっていくことなどで、心身ともにボロボロになっていました。HISAKOさんと知り合ってその活動に共感したMARKさんは、自分の会社も、当時の家も、何もかも処分して、「みんなを笑顔にしたい」という思い一つでHISAKOさんと沖縄に移住しました。売上という重荷を下ろせたことで力が抜けたのがよかったのか、不思議なことに売上はむしろ上がっていき、現在MARKさんは人生の中で最大の売上を上げています。売上を支えているのは物品の販売。彼らが売っているのはHISAKOさん考案のアイテムです。MARKさんは、HISAKOさんをさらに世の中に知ってもらいたいと、マーケティングや動画制作の研究に余念がありません。売上を伸ばすことが目的ではありません。HISAKOさんのファンが増えることで、HISAKOさんの作っているものがもっと世の中に届くことを願っているのです。性や命のことなど、本当に大事なことを社会に伝えて世の中の役に立ちたい。二人はそう強調します。
「こういうことは学校の授業だけでは不十分だけど、一生ものの知識なので絶対勉強しないといけない。私たちがちょっとでも伝えることができて、男女関係や同性同士においても、相手の気持ちに寄り添えるソーシャルスキルを身につけてもらえたら、きっとみんなが明るくなるし、世の中が活性化します。日本の社会は良くなります」。