レポート

セミナー報告

知っておきたい不動産裏話~上手な管理のために

UPDATE 2022.09.22

今回のゲストは、株式会社ハウスメイトマネジメントの伊部尚子さんです。伊部さんは26年間にわたって、仲介、管理、リフォーム、相続コンサルなどさまざまな業務で、お客さまに寄り添いながら問題を解決されてきました。今日は、不動産の管理や仲介について、契約や相続のときに必ずチェックしていただきたいことをお話しいただきました。

2022年8月26日金曜日19時~21時
NATULUCK銀座 room B(東京都中央区銀座2-7-18 銀座貿易ビル)にて開催いたしました「不動産の表と裏1」セミナーの活動報告です。

賃貸管理業界の動向

まず、現在の賃貸管理業界を揺るがす大きな変化からお話しします。
令和4年(2022年)6月に「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が施行され、管理戸数200戸以上の賃貸管理会社は、国交省での登録が必要になりました。また、「資格を満たした業務管理者を設置する」「管理受託契約前に重要事項説明を書面で交付し説明を行う」「受領する家賃や敷金等は自分たちの財産やほかの業務の収益と分別して管理する」「管理業務の実施状況を定期的に賃借人に報告する」などの義務が課されるようになりました。
令和4年(2022年)5月には、電子契約のための法律が施行されています。業界も徐々に電子契約化に対応していくと思います。
こういった法改正により、賃貸管理業務の内容もかなり細かくなりました。国交省の標準契約書を参考に見てみると、「管理業務」として大きく三つ、入居者さんとの契約の管理業務、共用部の清掃、そして設備管理業務を挙げています。
なお、「管理」というと、入居者さんの家賃管理を含む一つめの業務が浮かぶかもしれませんが、その範囲や内容は実は管理会社ごとにバラバラです。管理料を比較する際、その金額で何を委託しているのか、契約書でしっかり確認してください。

 

管理会社をよく知ってうまく付き合おう

仲介会社や管理会社には、それぞれ得意とする業務、エリア、顧客層などがあります。オーナーさんは、目的やニーズに合った会社を選ぶことが大事です。
例えば、テナント付き物件の得意不得意、エリアの向き不向き、また、仲介が専門なのか建物の維持管理も得意なのかという違いもあります。それで、ざっくばらんに「できる/できない」を話し合ってください。「不得意なことは言ってください」と聞けば、ちゃんと答えてくれると思います。どの会社にも熱い思いを持った担当者は必ずいますから、知識と良識のあるパートナーを見つけましょう。

また、専任媒介と一般媒介はどちらがいいのかとよく質問されます。次に挙げるご希望やお悩みがあるオーナーさんは、専任媒介がいいでしょう。一社とツーカーでやりたい、本業が別にあって時間が取れない、仲介だけではなく管理業務も頼みたい、賃貸経営にはまだ慣れていない、といった方です。なかなか借り手が決まらない物件も、やはり専任媒介がいいでしょう。物件のフェンスに不動産会社の募集看板がたくさん並んでいると、仲介業者としては「この物件にはどの会社も親身になってない」と思います。そのような物件は、自分たちがその物件に改善提案しても別の業者で決まれば仕事にならないので、そこまで労力を割こうとは思えません。
一方、ベテランオーナーさんや専業の方で、いろいろな不動産会社に仲介を依頼したい、自分が仕切る前提で依頼したい、打ち合わせに時間を割くことができる、入居審査がしっかりできる、自分で物件力を向上できる、といった方や、空室が出てもいい条件ですぐ決まる物件であれば、一般媒介でもいいでしょう。また、懇意の営業マンが複数社にいて、競って声をかけてくれる状況であれば、一般媒介で問題ないと思います。

最近では、新築や建て替え物件にはたいていサブリース保証がついています。でも、「これで毎月○○万円が入ってくる」と安心しきって、内容を精査しないまま契約される方が非常に多いです。「物件の事業計画が実は失敗だった」ことが見えてくるのは時間が経ってからです。その時にサブリース会社に値下げを要求されたら、事業が成り立たなくなる可能性もあります。この段階で初めて「値下げに応じられなければ解約」という契約になっていたことに気づくケースもあります。問題に気付かずそのまま相続してしまうこともあり得ます。建物の維持管理費、将来の家賃値下げの条件、入居者の入れ替わりの頻度、大規模修繕費は計上されているのか、老朽設備の交換や新しい設備投資は加味されているのか、これらをきちんと確認してください。

意外と知らない、こんな時のチェックポイント

1)中古物件を購入

完璧な物件はありませんが、物件の状態や条件は価格に反映されるものですから、きちんと把握した上で買いましょう。以下はしっかり確認してください。

➀賃貸契約書のない部屋はないか:契約書はあっても、賃借人の身分証明書のコピーや火災保険の証書の控えなど、付属書類が何もないこともあります。
➁連帯保証人がいるか、保証会社は引き継げるのか:管理会社が変わると保証もなくなるというケースもあります。保証会社の控えがきちんとあるかも確認してください。また、保証会社が何をどれだけ保証しているかを知らないオーナーさんは多いです。部屋ごとに保証会社がばらばらのこともあります。
➂滞納者はいないか:滞納されている部屋は、修繕が必要な状態で放置されていることも多いです。
➃クレーマーの存在
➄設備の故障が放置されていないか:長期にわたって未解決のクレームがないかも確認してください。
➅火災保険には全入居者が加入しているか:更新できていない方もいらっしゃいます。
➆長期に住んでいる高齢の方の連帯保証人:亡くなられていることがあります。入居者さんの契約の内容、緊急連絡先、保証人の有無などはチェックしてください。

また、法定点検の資料や報告は物件の最新状況が書かれているので、引き継いでおくことをおすすめします。のちに役立つことがあります。

2)相続予定の不動産

相続する不動産を持っている方は、とにかく早めにご家族の意見をすり合わせておくことが重要です。できれば遺言書を作成するといいでしょう。近年は、家族関係が複雑になっていて遺産分割がスムーズにできないケースが結構あります。また、ずっと親世代が管理をしていたため、急に親が倒れて子どもが管理できない、名義人が認知症になってしまった、など深刻な問題になるケースも増えています。
建て替えを考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、昨今は入居者からの依頼で立ち退き料の増額交渉をする弁護士も現れ、立ち退き料が増加する可能性があります。定期借家に変える、あるいは建て替えせずに満室の時に売却するといったゴールを、家族で考えておいてください。
以下のような重要書類の有無も確認してください。なかったとしても、「ない」ことを把握しておくことは大事です。

・土地・建物権利書
・売買契約書
・建築確認の図面や竣工図面
・検査済証
・測量図
・過去の修繕履歴
・管理契約書
・賃貸借契約書

売買契約書がなければ、譲渡所得の計算で概算取得費として計上されますし、建築系の図面の有無で売却時の価格が変わります。未登記や相続登記がされていないケースも結構見受けられます。それらの手続きには膨大な時間と費用がかかるので注意が必要です。

3)事故物件の告知ルール

2021年10月、いわゆる事故物件に関する告知のガイドラインが国交省によって発表されました。告知が必要なケースを分かりやすく言うと、自殺や他殺、事故死や自然死で発見が遅れて特殊清掃が必要となるような死亡で、告知期間は原則3年ですが、ケースバイケースで判断されますので、入居者募集する不動産会社と話し合って決めて下さい。

建物ではなく人間を見る

賃貸住宅のオーナーになるとは、事業主になるということです。たくさん儲けたいなら、しっかり調べて確認し、なによりお客さんのことを考えましょう。入居者さんの目はごまかせません。建物ではなく人間を見て、お客さんはこの家賃で借りてくれるのか、何をするとどういうクレームが発生しがちなのか、居住者さんは何を必要としているか……このような目線で不動産経営をしていただきたいです。