レポート

セミナー報告

第2回初心者向けセミナー アセットクラスを理解して生涯安心のポートフォリオを組む

UPDATE 2022.09.15

――前回講座のおさらいから

初心者向けセミナー第2回目のテーマはアセットクラスです。アセットクラスとは、「株式」「債券」「日本円建て」「外貨建て」など、同じような値動きやリスク特性を持つ資産の分類のことです。前回のお話では、資産は分散させて運用することが重要であるとお話ししましたが、これは、アセットクラスを分散させて運用することです。本日は、各アセットクラスのリターンとリスクの概要についてお話しします。オルタナティブと呼ばれる資産についても紹介いたします。本題の前に、前回お話しした資産運用の分散の重要性について振り返りましょう。前回は、「円建ての債券」「円建ての株式」「外貨建ての債券」「外貨建ての株式」の4つに分散して資産運用をするということ、そして、「円高でインフレ」「円高でデフレ」「円安でインフレ」「円安でデフレ」4つのシナリオにおいて、4資産のどれが強いのかをご説明いたしました。多くの方は資産のほとんどを円で貯蓄されますが、これは円高でデフレのときには有利な資産運用です。この1年のように急速に円安が進んだ場合は、外貨建ての資産を持っていればその価値が急に増えることになります。特に日本では、円安が進むと国内の物価が上がりやすい、つまりインフレになりやすいので、外貨建ての不動産や株式を保有しておく必要があります。同じ円安でも、世界的にも景気が低迷してデフレが続く状況では債券のほうがいいでしょう。そして、円高でインフレのときは日本の株式を所有しておくのがいいと説明いたしました。ここで大事なことは、どれが一番「いい」「悪い」ではなく、資産をバランスよく分散させて投資することです。

お金に不安がない一生を過ごすためのポートフォリオとは
――アセットクラスについてその①:「伝統的な4資産」のリスク・リターン

アセットクラスの中でも、「円建ての債券」「円建ての株式」「外貨建ての債券」「外貨建ての株式」を「伝統的な4資産」と呼びます。これら伝統的な4資産について、GPIF(Government Pension Investment Fund/年金積立金管理運用独立行政法人)という機関を例に、それぞれのリターンとリスクをご説明いたします。
GPIFは、日本の皆さんからお預かりしている年金を運用する機関です。このGPIFの運用ポートフォリオは、私たちが皆さんにお勧めしているものと同様、4資産がちょうど25%ずつという構成になっています。投資額の半分ぐらいで株による収益を目指し、残りの半分を外国債券や国内債券などリスクが低いものに投資することで、バランスを取っているんですね。私たちも、資産運用に関しては基本的に同じ考え方です。
このようなGPIFのポートフォリオでは、国内債券の期待リターンを1%以下で想定しています。外国の債券の場合は2.5%ぐらいです。債券はリターンが少ないのですが、リスクも少ないのです。特に国内の債券は円建てなので、為替の影響もありません。株の場合は債券に比べるとリスクがだいぶ高くなりますが、その分リターンも高く、国内株では5%台、外国株であれば7%ぐらいが見込めます。
そして実際の運用成果ですが、2021年度の収益率は5%でした。累積の収益額で見ると105兆円増えています。GPIFは、2000年代の初めは円建て債券への投資比率が高かったので、伝統的な4資産を同じ比率で投資して運用し続けた結果ではないのですが、現在の運用資産額が196兆円ですから、この20年間で2倍ほどになったことが示されています。20年で2倍というのは、運用利回りとしては3.5%前後です。要するに、ポートフォリオ全体で3%から4%の運用利回りが確保できていれば、資産は20年で2倍になると言えるでしょう。伝統的な4資産を同じ割合で組んだポートフォリオでしたら、やはり利回りは3%から4%の間に収まっていきます。
ある30代のご夫婦のシミュレーションでは、3%あるいは4%の利回りを確保して運用していると、30年後、60代になってリタイアしてからも、資産は少しずつ増えています。残りの人生も問題なく過ごしていただけると思います。もちろん、利回りは高いに越したことはありません。でも、生活が成り立つだけのお金を得るということであれば、株式で大きなリスクを取って不安を抱えなくても、3%台や4%台の運用利回りで十分なのです。

金(ゴールド)はリターンを期待して投資するものではない?
――アセットクラスについてその②:オルタナティブ資産

オルタナティブ資産とは、伝統的な4資産とは異なる資産のことです。代表的なものは不動産です。何千兆という市場規模の株式や債券と比較するとマーケットはだいぶ小さいですが、これらに次ぐ運用資産として不動産がよく選ばれます。ヘッジファンド、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、また、美術品、ワイン、コインなどの実物もオルタナティブ資産です。
先に出てきたGPIFでも、2014年からオルタナティブへの投資に取り組み始めています。現在の投資額は2兆円ぐらいで、先ほど申し上げたようにGPIFのファンド総額は約200兆円ですから、全体の1%ぐらいがオルタナティブへの投資に占められているのです。ですから、もし皆さんもオルタナティブに投資するのであれば、せいぜい5%ぐらいに抑えていただきたいと考えます。逆に、資産の2割や3割を占めていらっしゃるケースでは、減らしてもらうようお願いしています。
基本的には、私たちが積極的にオルタナティブへの投資を勧めることはありません。あえてオルタナティブ資産に取り組む理由があるとすれば、それはポートフォリオ全体が安定するということです。ここでは、「オルタナティブ資産は株や債券の動きにはまったく関係がない」のがポイントです。金価格の変動は、株式や債券とはまったく別の理屈なのです。
少し理論をお話ししましょう。相関係数という数字があります。投資の世界においてこの数字が示しているのは、その資産が株式や債券とどのくらい関連しているかです。相関係数は最大が1で、このとき、そのクラスは株や債券とまったく同じ動きをします。逆に一番低いのはマイナス1で「株が100円上がったら、100円下がる」というように、まったく逆の動きをします。例えばヘッジファンドは、株式に対して0.5から0.8ぐらいの相関係数を示します。そして、相関係数が1でないものをポートフォリオに混ぜて一緒に運用していくことは、全体のリスクを下げる効果があります。これが、オルタナティブ資産をポートフォリオに組み込むメリットです。勘違いされがちなのですが、オルタナティブへの投資にはリターンを上げる効果はそれほどありません。ヘッジファンドの運用や金への投資は、高いリターンを得ることが目的ではないのです。

ということで、本日はアセットクラスのお話でした。伝統的な4資産に分散して投資・運用すれば、お金の不安なく人生を送るための十分なリターンを上げることは可能だ、ということを知っていただければと思います。また、オルタナティブ資産に関しては、数%の割合で保有・運用することでポートフォリオ全体のリスクを下げるものである、とお考えください。