【対談】「いま日本に必要な金融サービス」 – 後編 【対談】「いま日本に必要な金融サービス」 – 後編

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【対談】「いま日本に必要な金融サービス」 – 後編

柴山 和久さん
ウェルスナビ株式会社
UPDATE 2020.01.06

ウェルスナビ 柴山さんと考える
「いま日本に必要な金融サービス」 - 後編

それでも心のどこかにある「投資は危ない?」という不安感は的外れ?

小屋:アメリカでキャリアの長いファイナンシャル・アドバイザーの人たちと話すと、金融ビジネスは「スノーボールを転がすようなものだ」と言われるんですね。
お客様の信頼を得ることができれば、預かり資産はスノーボールを転がすように徐々に大きくなっていく。ただし、最初の何年かきつい上り坂があって、大変な思いをする。でも、どこかでその坂を超えれば、自然に転がっていって大きくなっていくビジネスだ、と。
僕も会社を立ち上げて数年はきつい時期が続きました。それでもがんばれたのは、信じてくれるお客様がいてくれたからです。5年目を迎える頃、預かり資産が増え、結果も出るようになり、目の前で喜んでくれるお客様とさらにいい関係を構築できたことで自信を深めましたし、次につながる信頼を築くこともできました

柴山:困難を一緒に乗り越えていく経験も大きいですよね。妻の両親の今の悩みは、何度も一緒に金融危機を乗り越えてきたアドバイザーが、高齢のために引退すること。それほどの強い信頼関係で結ばれているんですね。こんな関係性が、日本でも構築していけたら……と思っています。
ただ、2018年2月に大きく相場が崩れたとき、ウェルスナビを利用してくださっているお客様の中にも不安になった方々がたくさんいました。やはり「最近、資産運用を始めました」という人はちょっとした変動でも動揺すると思います。小屋さんは、そういったときはどうされているんですか?

小屋:会います。うちのクライアントさんで、去年から「長期、積立、分散」の資産運用を始められた女性がいます。1年後の運用状況は、2018年2月の下落の影響もあって若干マイナスでした。不安に思われたその方は、「リスクを取りすぎている気がします」「マーケットに何かあったら資産が3割くらい減っちゃうんじゃないかと恐れています」と連絡をくださいました。
もちろん、我々アドバイザーも将来のことを完全に予測することはできません。しかし、過去のリスクとリターンから考えて組んだその方のポートフォリオは、30%もの損失が出るようなものではないわけです。そのあたりを改めてお会いしてご説明しました。
幸い納得してくださったので、その方は長期運用を継続されています。

柴山:積立、分散による長期運用で複利のメリットが大きく運用状況に反映されるのは、10年後以降。時間を味方につけた資産運用です。それは理解していても、統計上では相場が高くなったときに買って、大きな下落があるとパニックを起こして売ってしまう人が圧倒的に多いというデータがあります。
もし、小屋さんのようなアドバイザーがいなければ、そのクライアントの女性も1年で運用をやめてしまったかもしれませんね。逆に、過去にリーマンショック級の金融危機も何度も乗り越えてきたアメリカの個人投資家は、大きな下落が起きても堂々としています。長期的に見れば、波の1つに過ぎない、と。その感覚になるには時間がかかりますよね。

小屋:うちのお客様で言うと、運用期間が3年以上になってくると、日々の運用状況の変動に不安を口にされることが減っていきます。

−−柴山さんのところはお客様の不安に、どう対応されているんでしょうか?

柴山:ウェルスナビは2017年にスタートして、2年半たった2019年2月時点で、12万人の利用者の方が集まってくださいました。残念ながら、12万人全員とお会いすることはできません。だからこそ、大きな下落があったときには定期的に開催している資産運用セミナーをより積極的に行うようにしています。
その場でお客様がどういう不安を感じていらっしゃるのかに耳を傾け、その悩みを共有して、我々の考えもきっちり発信していきたいからです。セミナーはサービス開始から3年弱で100回くらい開催しています。オンラインとデータだけでは掴み取れないお客様の感情、声、声にならない声を感じ取るためのアンテナという意味があり、今後もWebサービスだからこそできるお客様との最適なコミュニケーションの方法を試行錯誤していくつもりです。

小屋:契約者12万人という数は計画通りですか?

柴山 ほぼ計画通りで、「働く世代向けの資産運用サービス」への手応えは感じています。ただ、個人的には今の10倍規模になって、やっとスタートラインだと思っています。
世の中で働く世代で資産運用サービスを求めている方は、1000万人単位でいらっしゃるはずですから。利用者数が100万人になってもやっとスタート地点だと思いますし、預かり資産の額で言うなら今は1300億円くらい。この数字が10倍の1兆3000億円になっても、日本の個人金融資産1800兆円からすると、0.1%にも届きません。それでも預かり資産が今の10倍になれば、ウェルスナビが誰でも安心して使える社会インフラとして認められる段階に入っていけるのかなと思っています。

働く個人が資産運用のアドバイスを受けるメリットとは?

−−日本でも長期の資産運用が当たり前になり、アドバイザーが社会インフラのようになっていく時代がやってきますか?

小屋: 1800兆円ある日本人の個人資産の約60%が現預金で眠っていることを考えると、資産運用ビジネスが成長産業であるのは間違いありません。しかし、これまでは投資を促す金融機関が自分たちのビジネスを優先してきたため、資産運用への信頼を積み上げることができていませんでした。
ただ、ようやく日本でも顧客目線で活動する独立系のファイナンシャル・アドバイザーやウェルスナビのような企業も増えてきました。誰もが当たり前のように長期の資産運用を考え、社会インフラのようにアドバイザーを使う状態への移行期には入ったと感じています。
とはいえ、アドバイザー業界としてはまだまだこれからです。どれだけのアドバイザーがお客様の信頼を得て雪だるまを押しながら、目の前の上り坂を上れるか。そして、アドバイザーの存在をいかに知ってもらうのか。知ってもらえれば、選ばれない理由はない気がしています。

柴山:行動経済学で言うと、投資に関して多くのお客様が「自分で投資した方がうまくいく」というバイアスを強く持っています。宝くじにも同じことが言えて、統計上の確率はどうあれ、「自分だけは当たる」と思って買う傾向があります。
2つのデータが物語っているのは、「運用をアドバイザーにお願いすることの価値がどれだけあるか」「ウェルスナビというアプリを使う価値があるんですか」が伝わっていないということです。頭で理解していても感覚的に受け入れにくいという壁をどう乗り越えていくのか。これは私たちの課題の1つです。

小屋:よく例えで話すのは、ダイエットコーチやジムのトレーナーさんの存在です。個人的なことで言うと、私はここ3年で10㎏くらい痩せました。それ以前から、痩せたいと思っていました。ジムに行くか、行かないかという選択肢では「行く」を選び、会費も払っていました。
でも、定期的に通わなかったので成果が出なかったわけです。
そこで、自分だけではうまく体重を落とすことができないと気づき、さらにお金を払ってパーソナルトレーナーをお願いしました。その後のダイエット方法はシンプルで、食事に気をつけ、適切な運動を行い、習慣化しただけです。

柴山:「長期、積立、分散」と似ていますね。

小屋:そう。食事の見直しと運動の継続。それで痩せることは誰もが知っているのに、うまくできない。自力でダイエットに成功し、リバンドせずにいられる人は一握りです。でも、プロのアドバイスがあると結果が出やすくなるんだな、と。
これは資産運用も同じで、書店に売っている指南本に書かれている「安いときに買って、高いときに売る」「冷静に判断する」「損が○%になったら損切りをする」といったルールはシンプルで、自分でできそうな気がしてきます。だけど、大多数の人はなかなかうまく運用できずにいるわけです。
私は自分を資産運用におけるダイエットのアドバイザーやジムのトレーナーのような存在だと思っています。もっと気軽に活用してもらいたいですし、一緒に投資すると成果が出やすいんだと実感してもらいたいんですよね

柴山:じつは海外でも個人でアドバイザーを付けているのは、富裕層が中心です。でも、有益なアドバイスを本当に必要としているのは、これから資産を作っていく20代、30代、40代の人たち。子どもの教育資金や自分たちの老後の生活費を備えていく必要がある働く世代にこそ、身近にいるアドバイザーの存在に気づいて欲しいですよね。

−−どうやったらアドバイザーの重要性が伝わるでしょうか?

柴山:時間はかかりますが、成功体験が伝わっていったら……じゃないでしょうか。対面とオンラインとアドバイスの仕方が形式は違って、我々のような働く世代の資産運用を支援するビジネスを行う側が、多くの人に成功体験を積み重ねてもらう努力を続けることが重要だと思います。その結果として、アドバイザーの存在の意味を多くのお客様に実感してもらえれば、遠回りでも一番の近道になるはずです。

小屋:これもまた健康やダイエットの話を例にすると、「健康ではいたいけど、健康診断には行きたくない」「痩せたいけど、体重計に乗りたくない」という人が一定数います。でも、現状と向き合わなければ未来のプランは立てられません。
資産運用のアドバイザーとしてお客様と面談するとき、私はその方の資産に関する情報を一切合切いただくところからスタートします。その時点でお金がなくても何の問題もありません。大事なのは、一度、自分の資産状況や将来のことを検討する時間、向き合う時間を作ってもらうこと。そのステップを踏んでもらうだけでも、アドバイザーを使う価値はあると思います。
ウェルスナビや私のビジネスは、あくまでも資産運用の問題を解決していくツールですから。将来に向けてどうやって資産を形成していくか悩んでいる人たち、悩みそのものに気づいていない人たちが、ツールの存在に気づくよう根気強く情報を発信していきたいですね。

対談者プロフィール

  • 柴山 和久

    柴山 和久

    ウェルスナビ株式会社(公式サイト)代表取締役CEO

    「誰もが安心して手軽に利用できる次世代の金融インフラを築きたい」という想いから、プログラミングを一から学び、2015年4月にウェルスナビ株式会社を設立。2016年7月に資産運用ロボアドバイザー「WealthNavi」をリリース。リリースから約5年3カ月となる2021年11月に預かり資産6,000億円を突破した。起業前には、日英の財務省で合計9年間、予算、税制、金融、国際交渉に参画。その後マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務し、10兆円規模の機関投資家をサポート。東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD卒業。ニューヨーク州弁護士。Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2021」Top 3に選出。著書に『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いた これからの投資の思考法』(ダイヤモンド社、2018年)

  • 小屋 洋一 (聞き手)

    小屋 洋一(聞き手)

    株式会社マネーライフプランニング(公式サイト) 代表取締役

    1977年宮崎県生まれ、東京育ち。2001年慶應義塾大学経済学部を卒業し、総合リース会社に入社。中小企業融資を担当した後、
    2004年不動産流通業を行うベンチャー企業に転職。営業、営業企画等を経験し、2008年に退職。
    同年にAFPを取得後、独立し、個人富裕層のアドバイスに特化した株式会社マネーライフプランニングを設立。
    2010年にCFP®を取得し、現在に至る。

    <所属・関連団体>

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