【対談】新井和宏さんと考える、これからのお金の使い方-前編 【対談】新井和宏さんと考える、これからのお金の使い方-前編

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【対談】新井和宏さんと考える、これからのお金の使い方-前編


UPDATE 2021.10.19

「あたらしいお金の教科書」の著者 新井和宏さんと考える、これからのお金の使い方-前編

「本当に大切なものは、お金で買うことができない」
これは多くの人が耳にしたことのあるフレーズだと思います。
しかし、今の世の中ではむしろ「お金があればなんとかなる」「多くの蓄えが幸せにつながる」という考えが主流です。本来は幸せになるための手段に過ぎないお金が、いつの間にか人生の目的になってしまっています。

こうした現状に疑問を持ち、どうすれば人生の目的を取り戻すことができるのか。「生きがい」や「自己実現」など、人間の幸せを形作る要素を大切にできる社会へと向かうには何が必要なのか。そんなことを真っ直ぐに考え、「共感資本社会」という考え方を提唱しているのが、今回のゲスト・新井和宏さんです。

新井さんは大学卒業後、住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)を経て、バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)に入社。公的年金などを中心に、数兆円という額の運用業務に従事してきたファンドマネージャーです。
しかし、2007~2008年、大病とリーマン・ショックをきっかけに、それまで信奉してきた金融工学、数式に則った投資、金融市場のあり方に疑問を持つようになったと言います。その後、2008年11月、元同僚らと鎌倉投信株式会社を創業。2010年3月より運用を開始した投資信託「結い2101」は、独自の基準で選んだ “いい会社”に投資する姿勢で多くの支持を集めています。
そして、鎌倉投信退職後の2018年9月、株式会社eumo(ユーモ)を設立。貯蓄することができず、有効期間が発行から3カ月に設定されている、あえて不便なコミュニティ通貨ユーモを発行する事業を展開しています。

今回の取材のきっかけとなったのは、新井さんの新著『あたらしいお金の教科書 ありがとうをはこぶお金、やさしさがめぐる社会』(山川出版社)。お金について中高生から学べる内容となっている書籍のメッセージに惹かれた小屋さんがアプローチし、「お金」と「幸せ」をテーマにした対談が実現しました。

 

対談者プロフィール

  • 新井 和宏

    新井 和宏

    株式会社eumo(公式サイト)代表取締役

    1968年生まれ。東京理科大学卒。
    1992年住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社、
    2000年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)入社。
    2007~2008年、大病とリーマン・ショックをきっかけに、 それまで信奉してきた金融工学、数式に則った投資、金融市場のあり方に疑問を持つようになる。
    2008年11月、鎌倉投信株式会社を元同僚と創業。 鎌倉投信退職後の2018年9月、株式会社eumo(ユーモ)を設立。

    <SNS>

  • 小屋 洋一 (聞き手)

    小屋 洋一(聞き手)

    株式会社マネーライフプランニング(公式サイト) 代表取締役

    1977年宮崎県生まれ、東京育ち。2001年慶應義塾大学経済学部を卒業し、総合リース会社に入社。中小企業融資を担当した後、
    2004年不動産流通業を行うベンチャー企業に転職。営業、営業企画等を経験し、2008年に退職。
    同年にAFPを取得後、独立し、個人富裕層のアドバイスに特化した株式会社マネーライフプランニングを設立。
    2010年にCFP®を取得し、現在に至る。

    <所属・関連団体>

    <SNS>

2022年の4月から高校の家庭科で投資信託の授業が始まる!?

小屋:私たちマネーライフプランニングでは、個人のクライアントさんに株やファンド、不動産などによる資産運用をアドバイスしながら、ライフプランを提案しています。一人ひとりのクライアントさんはある程度、豊かな資産がありつつ、でも、どこか満たされない感覚もお持ちなんですね。
そんななか、投資を含め、どういうお金の使い方をすることが人生の幸せにつながっていくのかをライフプランとともに考える機会が増えています。

新井和宏さん(以下、新井):その感覚はよくわかります。

小屋:ただ、資産運用となるとどうしても目の前の数字に意識が向き、「儲かった、損した」に引っ張られ、感情が揺れ動いてしまいます。昭和、平成と日本で育ってきた人としては当然の感覚ではあるんですが、幸せになれるお金の使い方という視点を持っていただくのはなかなか難しいな、と。それがライフプランを提案する側の私たちの悩みの1つになっています。

新井:その葛藤もまた、よくわかります。

小屋:そんなとき、新井さんの書かれた『あたらしいお金の教科書』を拝読して、大きなヒントをもらえるのではないかと思い、今日はお邪魔しました。
幸せなお金の使い方にもつながっていく「お金」そのものの仕組みについて、中高生にもよくわかるように書かれていると思ったのですが、なぜ『あたらしいお金の教科書』を出版されたのか、その経緯から教えていただけますか。

新井:これまで僕は5冊出しているから「ウソつけ」と思われるかもしれないですけど、自分にとって本を書くのはすごく億劫な仕事なんです。じゃあ、なんで今回『あたらしいお金の教科書』を書いたかと言うと、去年、日本経済新聞で「金融庁が働きかけ、2022年の4月から高校の家庭科で投資信託の授業が始まる」という記事を読んだんですね。
瞬間的に「高校の家庭科の先生」と「投資信託を教える」に言語矛盾を感じて、「これはまずいのでは?」と思いました。
なぜかと言うと、先生たちは投資やライフプランニングについて専門的な知識がない人が大半だからです。もちろん、なかには実体験も伴った詳しい先生もいるでしょう。でも、それはレアケースで子どもたちに投資信託を教えるのは難しいだろう、と。
この例えは正確ではないかもしれませんが、「これ、包丁です。はい、使ってみて」と刃物の扱い方を教えずに、包丁を渡してしまうような授業になってしまうのではないかと思ったんですね。それで、金融庁にいる知り合いのところに「どういう意図があるんですか?」と聞きに行きました。

小屋:なるほど。金融庁に直接?

新井:はい。そうしたら、高校を卒業して就職し、就職先の会社に401Kの制度があれば、そこで一人ひとりが投資信託を選ばなくてはいけない。そのとき、選べるだけの知識を持てるように文部科学省と交渉して、家庭科の中で2時間だけ授業の時間を確保したんです……と。
でも、正直に言って投資信託について教わるには、「お金ってなんだろう?」「お金ってどうやって儲けるの?」といったことを考える力が必要ですよね。だけど、その授業はないわけです。だったら、「僕が書きます!」と。それでできあがったのが『新しいお金の教科書』です。

小屋:書くのは大変だけど、中高生から読める本がないなら作ってしまおう、と。

新井:そうなんですよね。最近、僕は自分のことを社会的な理不尽を食べるバクみたいなイメージで捉えていて(笑)。自分が社会のためにやっているという感覚よりも、「俺は理不尽を食わずにはいられない変態的な動物なのかもしれない」と思うようにしたんです。そうしないと頑張れないんですよ。
日本の教育の中で、お金の教育と性教育については海外に比べて圧倒的に遅れているわけです。タブー視され、学校で教えられていないため、それをちゃんと伝えることのできる先生もいません。だから、この本は高校の家庭科の先生用に書いたものでもあるんです。
うれしかったのは、ある自治体の小中学校全校でこの本をもとに授業を行うことになったこと。ここから10年あったら教える側の意識も、子どもたちのお金に対する向き合い方も変わるはずです。

 

自分のお金がどう使われ、社会にどう関わっているのか、に関心を持つ。それがお金の活かし方の根本

新井:僕がこの本で伝えたかったメッセージの1つが、「お金は置いておいても増えません。使われているから増えるんですよ」ということなんですよね。
資産運用で利益が出るのは、それが銀行の普通預金であろうと、投資信託であろうと、そこに預けたお金がどこかで使われているから増えるわけです。ところが、利回りと損得だけを見ていると、自分のお金が何に使われているかに目が向きにくくなっていきます。
すると、ますます目先の損得が気になり、株価が下がったから売ろうか、買おうか、上がったから売ろうか、買おうかと迷ってしまい、幸せな使い方からは遠のいていきます。

小屋:そうですね。

新井:ESG投資もそうですけど、自分のお金がどう使われ、社会にどう関わっているのかに関心を持つこと。それが、お金の活かし方の根本です。
活かす方法には、投資、消費、貯蓄、寄付など、さまざまありますが、大事なのは、自分のお金がどう使われているのか、という視点を持つこと。「あんな形で使えてよかったな」と思えるかどうか。その視点があれば良い循環が生まれますし、逆に活きたお金の使い方がなければ社会は悪くなっていきます。
今、社会全体が変わろうとしていて、海外ではどこに融資をしているか全部情報開示している銀行、ソーシャル・バンク※1もあるわけです。そして、その開示された情報を見て、「こんな形で使っているなら」と銀行を選んで預金をする人も増えています。

※1 ソーシャル・バンクとは……主として利益を追求する従来型の銀行と異なり、環境や社会に配慮した事業・プロジェクトなどをメインに融資する。社会的に意義があることに使われる資金は、“意志あるお金” と呼ばれ、欧州では単に利子を受け取るだけではなく、預けたお金が何に使われるのかに関心を持つ人々が増えている

新井:僕は今後、世界がその方向に行くと考えていますし、あとはどのタイミングで大きく動くかだけでしょう。だからこそ、子どもたちに「活きたお金の使い方」を考えるきっかけとなる本を書きました。先に子どもたちの意識が変われば、社会の意識も変化していきます。
今はまだESG投資について、「このやり方って、お化粧だよね?」と言う人たちがいますが、批判があれば改良する人たちがいて、その繰り返しによって手法は洗練され、成長し、その先に行けるようになっていくのです。

小屋:子どもたちに海外のソーシャル・バンクの情報を伝えた方が社会の変化は早くなると考えているわけですね。

 

食卓でお金のことを語るのがタブーであるという日本の常識を変えたい

新井:今の社会構造は利便性、効率を追い続けてできあがっています。でも、そこには資本主義の本質的な問題があり、合理的なことをやればやるほど、大きいところに資本が集中するんですよ。だから、このやり方を続けていても格差は広がっていくだけです。それでも大人たちには、この社会の中で自分たちのやってきたことのツケが回ってきているわけですから、ある程度、格差に悩むことになっても仕方がないと言えます。

でも、子どもたちにはなんの責任もありませんから、真っ当に物事を判断できる情報を提供していきたい。そこで、今回の『あたらしいお金の教科書』では全部の漢字にルビを振りました。今のところわかっている最年少の読者は小学校2年生。どんなに低学年でも興味関心があれば、本質的なことを学べるものを提供しようと思っていて、この本と連動する形で、Web上のnoteに補足の記事を上げていく予定です。
たとえば、「世界のソーシャル・バンクはどこまで進んでいるんだ?」といった記事をこれからどんどん出していき、知りたい子どもたちが「活きたお金の使い方」「幸せな使い方」についてどこまでも知ることができるように。そうしたら、自分でお金の使い方を選択できる子どもが増えていき、社会を変えていく原動力になるはずです。重要なのは、使う額ではなく、使い方の意識の問題ですから。

小屋:子どもたちの意識が先に変わったら、必然的に親も巻き込まれますし、何か質問されたときに、よくわからない……ではいられなくなりますね。

新井:僕は、食卓でお金のことを語るのがタブーであるという日本の常識を変えたいんですよ。広い意味での金融リテラシーの向上の土台はそこにあると思っていて、金融のプロが話す言葉にはテクニカルなことがあまりにも多すぎます。
子どもがお金について質問して、大人が食卓の話題として答えられる状態ができたら、よっしゃー! という感じですよね。

後編へつづく

※当記事の対談は新型コロナウイルス感染防止に十分配慮しながら行っております。また、撮影時のみマスクを外すご協力をいただきました。

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