【対談】「幸福学」の研究者、前野マドカさんと考える幸福感とお金の関係。人生に幸せを感じるためのいくつかのヒントとは?-後編 【対談】「幸福学」の研究者、前野マドカさんと考える幸福感とお金の関係。人生に幸せを感じるためのいくつかのヒントとは?-後編

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【対談】「幸福学」の研究者、前野マドカさんと考える幸福感とお金の関係。人生に幸せを感じるためのいくつかのヒントとは?-後編


UPDATE 2023.06.02

【対談】「幸福学」の研究者、前野マドカさんと考える幸福感とお金の関係。人生に幸せを感じるためのいくつかのヒントとは?-後編

 

幸福感のため、改めて見直したい人生のパートナーとの関係

前野小屋さんのクライアントの皆さんはある程度の資産がおありで、でも何か満たされない感覚をお持ちなんですか?

小屋最近お会いしたあるクライアントさんの例ですが、仕事をリタイアされて、奥様と2人で老後の資産運用について相談にいらっしゃったんです。FPとして資産状況を見てみると、この先、金銭的な不安を感じる必要はないくらいお持ちでした。でも、漠然とお金が減ることへの不安があり、「何か今後やりたいことはありますか?」と聞いても、「特にやることもないし、やりたいことも今のところ別にないんだよな……」と首をひねられている。特に旦那さんは、「やりたいことかぁ」と悩まれていましたね。

前野ご夫妻で何かを一緒に楽しむことはないんですか?

小屋奥さんはクラシックが好きで、コンサートも大好きで出かけているし、なんなら、ウィーンに音楽を聴きに行ってみたいと話されたので、「お金はあるんだからぜひ行ってください」とお伝えしたら、旦那さんは「別にクラシックに興味ないからなぁ。ジャズなら本場に行ってもいいけど」と。それで会話の風向きは、「夫婦で一緒に行って楽しめるかどうかわからない……」と消極的な雰囲気になってしまいました。

前野さんの話している様子

前野じつは、幸福学の研究では、パートナーの興味・関心に関心を持つことが、幸せの1つのポイントだと指摘されています。なぜなら、相手が何を心地良く、楽しいと感じ、大事だと思っているかには理由があり、その理由がその人の人生に深く関わっているからです。

小屋パートナーがお互いの興味・関心について深掘りすると、パートナーシップが深まっていくんですね。

前野そうですね。ご夫婦の音楽の趣味が違ったとしても、お金があるのなら、ニューヨークでジャズを聞いて、ウィーンに飛んでクラシックを聴くのもいいですよね。そして、それぞれの「好き」について大切なご主人と大切な奥様で話してみる。例えば、ご主人のお気に入りのジャズマンの生き方が好きだという話が、奥様が好きなクラシックのソリストの人生に共通点があった……とつながっていくとしたら、一緒にいる時間が楽しくなっていくはずです。2人の関係性は離婚しない限り、死が訪れるまで変わりませんから。
実際、私たちが開催しているワークショップでも、30年近くパートナーでいたけれど、自分は自分で完結しているから、意外と相手の良さを知らなくてバラバラ、という理由で参加したご夫婦がいました。
ワークショップで、残りの人生で一緒にやってみたい夢とか、やりたいことをお互いに3つ書き出してみたら、実は2つが一緒だった。日頃そんな話をしないから「お互いに何を考えているか、よくわからない」と思いながら日々過ごしていたけど、その日から人生が変わっていったそうです。

前野さんの話している様子

小屋先ほどのお2人もそうですが、深く話をしてない夫婦は多いと思います。たとえば、私たちがお金の相談を受けるなかで、前野さんたちが幸福学やパートナーシップのワークショップでやられているようなことをやってみて、いい効果が得られるものでしょうか?

前野本人同士だけで問いかけ合うのは意外に難しいんですよね。だから、お金の相談という重要な場面で、コーチングのように第三者が入るのはいいと思います。良質な問いがあればあるほど、いい会話が生まれ、関係は深まりますから。

 

幸福学から見た、幸せを感じられるお金の使い方

小屋お金の使い方と幸せの関係について、幸福学ではどのように解釈されていますか?

前野まず、何かを買うという行為で得られる幸せは、薄れてしまう傾向にあることが研究でわかっています。いくら良いモノを買っても、もっと高いモノ、希少なモノが欲しくなり、満足できなくなっていくのです。

小屋では、幸せにつながるとされている使い方はありますか?

前野体験にお金を使うのは、幸せにつながります。たとえば、以前から興味のあった世界遺産の遺跡を見に行く、ガイドと一緒に憧れていた名峰を登る、いつかは行きたいと思っていた土地を巡る……。自分から望んでする体験は、幸せを感じさせてくれます。さらに、それを誰かと一緒に体験すると、共通の思い出となり、幸せが持続します。それが身近なパートナーだったら、その後も一緒に過ごしていきますから同じ記憶を持ったことでより関係が深まるわけです。そこにパートナーそれぞれの仲間が関わってくると、みんなの体験として残り、コミュニティのつながりが増していきます。

小屋私たちも来月、クライアントさんたちと一緒に瀬戸の陶芸家を訪ねて、陶芸を体験する予定です。

前野それはすごくいい試みですね。

 

お金があっても幸せを感じられない理由は、自己肯定感にあった

小屋とはいえ、まだまだ使うことによって幸福を感じる前に、お金の心配から離れられないクライアントさんも多くいます。僕らプロがいくら「あなたたちはもうお金の心配をしなくても大丈夫じゃないですか」と言っても、お金そのものに固執してしまうんですよね。

前野ある知り合いの方の例ですが、代々の遺産で100億円近い資産を持っていたんですけど、株式投資などでそれが40億円になってしまった。ご本人はもうおばあちゃんなので、それでも使い切れない額です。でも、失った金額への執着が手放せなくて、うつ病になってしまったんです。心療内科に通い、毎晩睡眠薬を飲むという暮らしになって、人生の晩年を楽しめなくなってしまった。
こうなってしまう背景には、ご自身の自己肯定感が関係していると思っています。

小屋自己肯定感ですか。

小屋さんの話している様子

前野本当の意味で、「あなたはお金を持ってなくても、何か偉業を成し遂げなくても、存在だけで素晴らしくて大切なんですよ」ということを言ってくれる人が側にいたら、自己肯定感は高まります。それがないと、お金をいくら稼いでも幸せを感じられないという方向に向かってしまうのかもしれません。
幸福学の研究をしていると、あまりお金を持ってないのに、すごく幸せそうな人とたくさん出会います。その方々に共通しているのは、成長過程で、身近な人や家族から肯定されて育った思い出、消せない愛をもらった経験があるんです。

小屋となると、大人になって50代、60代から自己肯定感を高めていくのは難しいようにも感じます。65歳でリタイアして、お金はいっぱいあるのに、自己受容は低く、自己肯定感も低い。そういうクライアントさんが仮にいたとして、私たちはどう関わっていくといいのでしょう?

前野先天的、後天的で言うと、何歳からでも大丈夫です。大人同士でも相手のいいところをみつけて、いつも肯定的な言葉をかけていくと、それが当たり前になってきて習慣のようになり、自己肯定感が高くなっていきます。ただ、子どもの頃と違って固定観念がある分、時間はかかります。それでも、「あなたのいいところはここだよね」「こういうところがすばらしいよね」と声かけしてくれる人がいると、自己肯定感が満たされていくのです。

前野さんの話している様子

小屋肯定的なことを言ってくれる人の側にいることが大事?

前野そうですね。自分を本当の意味で理解してくれている人と一緒にいること。肯定的な言葉をかけ続けてくれる人との関係を大切にしてください。そういう意味でのご夫婦の関係やパートナーシップについて見直していくのは意味があることです。
脳は自分の発する言葉も聞いていますから、肯定的なことを言う側にもいい影響があります。ご夫婦でそういう声かけをしていると、双方にいい影響を与え合えるんですよね。
お金も大事ですけど、多くを持っていても心がさびしいのでは幸せは遠のきます。使える余裕があるなら最大限に使って、自分の心をいい状態にもっていってほしいです。すると、本人が満たされた分、周囲の人にも肯定的な言葉がかけられるようになるはずですから。

 

対談者プロフィール

  • 前野 マドカ

    前野 マドカ

    EVOL株式会社(公式サイト) 代表取締役CEO

    EVOL株式会社代表取締役CEO。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科付属SDM研究所ヒューマンシステムデザイン研究室研究員。国際ポジティブ心理学協会会員。サンフランシスコ大学、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)、子育てのヴィジョンを考える会などを経て現職。PTA活動では、全国PTA連絡協議会会長賞受賞。著書に『ウェルビーイング』『ニコイチ幸福学』『月曜日が楽しくなる幸せスイッチ』など。

  • 小屋 洋一 (聞き手)

    小屋 洋一(聞き手)

    株式会社マネーライフプランニング(公式サイト) 代表取締役

    1977年宮崎県生まれ、東京育ち。2001年慶應義塾大学経済学部を卒業し、総合リース会社に入社。中小企業融資を担当した後、
    2004年不動産流通業を行うベンチャー企業に転職。営業、営業企画等を経験し、2008年に退職。
    同年にAFPを取得後、独立し、個人富裕層のアドバイスに特化した株式会社マネーライフプランニングを設立。
    2010年にCFP®を取得し、現在に至る。

    <所属・関連団体>

    <SNS>

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