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また、その他資産運用に関する様々なコンテンツをお届けします。【対談】運用のプロから金融教育家へ:塚本俊太郎氏の転身と使命- 前編
今回対談のゲストにお迎えしたのは、金融教育家の塚本俊太郎さんです。
20年以上にわたり外資系運用会社でキャリアを積み、金融庁の金融教育担当を経て、現在は「小学生からお金のことを考える会」などの活動を通じ、子どもから大人まで幅広い層に向けた金融教育を行われています。お子さんのいる読者の方には、小学生向け「うんこお金ドリル」の作成を担当されたとお伝えすると、ピンとくるかもしれません。
現在はテレビ出演や講演、YouTubeチャンネル「塚本俊太郎の金融リテラシーチャンネル」も運営するなど、多方面で活躍する塚本さんに、なぜ運用のプロから金融教育の道を選んだのか。その転機と思いを聞きました。
塚本俊太郎(つかもと・しゅんたろう)
20年超外資系運用会社で勤務したのち、金融庁の金融教育担当として高校家庭科での金融経済教育指導教材や小学生向け「うんこお金ドリル」の作成を担当。現在は金融教育家として、金融リテラシーや資産形成について講演等を行う。
慶應義塾大学総合政策学部、米国シラキュース大学大学院国際関係論卒業。
NHK Eテレ「趣味どきっ! 今日から楽しむ“金育”」講師。
YouTube「塚本俊太郎の金融リテラシーチャンネル」(チャンネル登録者1.2万人)
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小屋 洋一(聞き手)
株式会社マネーライフプランニング(公式サイト) 代表取締役
1977年宮崎県生まれ、東京育ち。2001年慶應義塾大学経済学部を卒業し、総合リース会社に入社。中小企業融資を担当した後、
2004年不動産流通業を行うベンチャー企業に転職。営業、営業企画等を経験し、2008年に退職。
同年にAFPを取得後、独立し、個人富裕層のアドバイスに特化した株式会社マネーライフプランニングを設立。
2010年にCFP®を取得し、現在に至る。
<所属・関連団体>
<SNS>
小屋塚本さんはUBS信託銀行、メリルリンチ、ゴールドマン・サックス、バンガードと、外資系の運用会社で長いキャリアを積まれています。そもそもどのように金融業界に入られたんですか?
塚本さん(以下、塚本)実は学生時代、全く違う分野を目指していたんです。慶應義塾大学総合政策学部を卒業した後、私は国連で働きたいと思っていました。そのためには修士が必要で、いっそアメリカに留学してしまおう、と。シラキュース大学大学院で国際関係論を専攻。当時は国連のPKO(平和維持活動)が注目されていたこともあり、そういう仕事をしたいと考えていました。
小屋それがどうして金融業界に?
塚本端的に言うと、国連に入るための試験を受けたんですが、見事に落ちてしまって(笑)。日本に帰ってきて就職活動を始めました。ただ、帰国した時点で5月半ばだったので新卒採用は終わっています。通年で採用をしていて、英語が話せること、コンピュータが使えること、経済学の知識があることを活かせる仕事を……と絞っていったら外資系金融機関とコンサルティング会社が残りました。ただ、現役のコンサルタントの方に話を聞くと、クライアントは全部日本企業で、英語はほぼ使わない、と。
小屋なるほど。
塚本その点、外資系金融機関は本部がイギリスやアメリカにありますから、留学経験が活かせると思ったんですね。その後は目星をつけた会社に直接電話をして「採用やっていますか?」「履歴書を見てくれませんか?」とアプローチ。たまたまUBS信託銀行が、パソコンを使えて英語もできる人を探していて入社が決まりました。
小屋最初から運用担当だったんですか?
塚本債券運用部のファンドマネージャーとして5年ほど勤めました。もちろん、最初は上司の下について学びながらです。ただ大学時代に竹中平蔵さんのゼミのティーチングアシスタントをしていた経験があり、経済学のベースはあったので元々興味のある世界でした。その後、上司から「将来的には株式の経験も積んだ方がいい」とアドバイスされたこともあり、メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ(現ブラックロック・ジャパン)のアセットアロケーション部門に転職、そこでは年金向けの運用やタクティカルアセットアロケーションなどを担当していました。
小屋海外勤務も経験されたんですか?
塚本はい。2007年から2年間、イギリスに駐在しました。日本向けにダイナミックにアセットアロケーションを変えていく形で、収益を追求する運用手法をイギリスのチームと開発するという任務でした。ただ、ちょうどリーマンショックの時期と重なり、予定より早く日本に戻ることになりました。
その後、ブラックロックとバークレイズ・グローバル・インベスターズ(BGI)が合併し、会社の規模が一気に倍になったんです。扱う商品ラインナップも広がり、自分の担当していたマルチアセット運用の提案がなかなか受け入れられにくい状況になりました。
小屋そのなか再び転職された。
塚本そうですね。メリルリンチとブラックロックは合わせて10年間在籍したんですが、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに移りました。そこでも年金向けの運用と営業の橋渡し的な役割を担当。5年間勤めた後、自分の中でもう1回株式の運用に戻りたい気持ちが強くなったんですね。そのタイミングで、バンガード・インベストメンツ・ジャパンが運用部の人材を探しているという話があり、転職。投資戦略部長として、機関投資家向けにETFの提案や個人投資家向けのセミナーなどを行っていました。
小屋バンガードでの経験が、金融教育への転機になったんですか?
塚本そうなんです。バンガードは長期分散投資を低コストのインデックス投資で行うというポリシーを掲げていて、私もその考え方に非常に共感しました。資産運用EXPOのような大規模セミナーで、「買ったり売ったりするのではなく、積み立て続けて増やしていきましょう」という話をすると、アンケートで50%近くの方から「良かった」という評価をいただくんです。
小屋反響が大きかったんですね。
塚本はい。セミナー後にブースに来られるお客様から「わかりやすかった」「バンガードのETFで投資していて資産が何倍にもなりました」「バンガードの話は毎年同じだけど、自分は年に1回ここで長期分散投資の意義を再確認している。来年以降も続けてください」といった声をいただくことが多かったです。また、アメリカ出張でバンガードの本社があるフィラデルフィア近郊のレストランで食事をしていた時、印象的な出来事がありました。
小屋というと?
塚本日本人が比較的めずらしかったのか、中高年のウェイトレスの方と「どこから来たの?」と世間話になったんですね。「自分はバンガードに勤めていて、本社に出張できたんだ」と伝えると、その方が笑顔で「私はバンガードで長年投資してきて、子どもの大学費用も賄えたし、老後の費用もつくれたし、もうすぐリタイアできる。だからバンガードには本当に感謝しているのよ」と言ってくれたんですね。
小屋一般の生活者の方が投資で恩恵を受けている姿を直接見たわけですね。
塚本そうです。それまで運用会社で長く働いてきましたが、一般の生活者が実際に役立っていると実感する機会はなかったんですよね。これは日本でも投資について学べる機会を増やしていくべきだと思いました。
塚本ところが、しばらくしてバンガードが香港、シンガポール、上海、東京……とアジア地域全体からの撤退を決め、2019年のコロナ禍になる直前に私もリストラに遭ったんです。次をどうしようかと仕事を探していたところ、偶然、山崎元さんのコラムを読んだんです。そこには「金融庁が金融教育の担当者を募集している」「証券会社で悪いことをしていた人は、心を入れ替えて金融庁で働いてみてはどうですか?」と、じつに山崎さんらしいメッセージが書かれていました。
僕は悪いことをしてきたわけではありませんが、バンガードでの経験も背景にあり、「これだ」と思い、初めて日本語で履歴書を書いて金融庁に送りました。
小屋コロナ禍での金融教育は大変だったでしょうね。
塚本そうですね。でも逆に、オンライン授業がきっかけで学生同士の交流が生まれ、授業の評価が高くなるという意外な出来事もありました。4月に入学して以降、ずっと自宅からオンライン授業を受けていた新入生たちが初めて他の学生と交流する機会を提供できたんです。2年間の任期でしたが、結果的にはZoomを使った参加型の授業開発や、高校家庭科での金融教育を行う教員向けの指導教材作り、小学生向けの「うんこお金ドリル」の作成などを担当。改めて金融教育の重要性を感じましたし、この仕事をライフワークにしていこうと2022年に独立して金融教育家として活動を始めることにしました。
小屋運用業界は年収も良い業界ですし、そこから教育の道へ転身するというのは、相当な覚悟が必要だったのではないですか?
塚本たしかに収入面では変化がありましたが、バンガードでの経験が大きかったですね。一般の方々の資産形成に役立てる可能性を感じられたことは、とても大きな転機でした。金融教育を通じて、より多くの人が適切にお金と向き合えるようになれば、という思いが強かったです。
小屋私も独立系のアドバイザーとして活動していますが、なかなか認知されにくい分野ですよね。
塚本さんの活動は、そういった意味でも非常に意義深いと感じています。
塚本ありがとうございます。金融教育についても、「投資の話なのか」と誤解されることもありますが、もっと幅広い内容です。家計管理やライフプラン、そして資産形成というのが金融教育の3本柱。特に子どもたちが将来自分で金融商品やサービスを適切に選び、活用できる力を育てることが大切だと考えています。
こうした取り組みは一朝一夕で成果が出るものではありませんが、少しずつ広がっていくことを願っています。