【対談】金融教育の実践と未来:お金の知恵を次世代に- 後編 【対談】金融教育の実践と未来:お金の知恵を次世代に- 後編

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【対談】金融教育の実践と未来:お金の知恵を次世代に- 後編


UPDATE 2025.06.24

【対談】金融教育の実践と未来:お金の知恵を次世代に- 後編

前編では、元外資系運用会社のプロフェッショナルから金融教育家へと転身した塚本俊太郎さんの経歴と、その転機となったエピソードを紹介しました。後編では、塚本さんが実践している金融教育の具体的な内容や成果、そして未来への展望を探ります。

実践学園での金融教育。中学生から始める本格的なお金の学び

小屋実際に行っている金融教育の活動について、詳しく教えていただけますか?

塚本現在、中野区にある実践学園という学校で、中学2年生向けに通年の授業を行っています。月1回、3時間で、すでに3年目に入りました。リベラルアーツ&サイエンスコースという少人数のクラスで、英語での授業も多いカリキュラムを受けている学生たちが対象です。

小屋中学生に金融教育というと、難しそうな印象もありますが。

塚本実は中学2年生でも、家計管理・ライフプラン・資産形成の基本は十分理解できるんです。しかも、彼らは中学2年の夏休みにオーストラリアへ研修旅行に行くんですね。そこでのお小遣いプランを立てるというリアルな課題を通じて、学びを深めてくれます。

小屋実践的なアプローチですね。

塚本はい。オーストラリアでの物価を調べると、日本のポテトチップスが100円なのに対して1000円近くするとか、ミネラルウォーターの値段はそれほど変わらないなど、具体的な発見があります。さらに為替変動の影響も考慮する必要があるので、自分ごととしてインフレや為替について関心を持つようになります。

小屋そういった実体験と結びつけると、経済や金融への関心が自然と高まりますね。

塚本そうなんです。経済や金融に興味が出て、新聞を読んだり、ネットで調べたりという習慣がつくんですね。授業を受けたからといってすぐに完璧な金融リテラシーが身につくわけではありませんが、新しい金融商品やサービスが出てきたときに「これは自分にとって本当に必要なのか」と考え、情報を集めて判断するトレーニングになっています。

また、他にも大学の授業料を調べるという課題も出しています。国立の文系だったら4年間で240万円くらいだけど、私立の医学部に行くと3000万円近くかかる、とか。留学するとなるとどれくらいの費用が必要になるのか、とか。進路に直結しているので真剣に取り組んでくれますね。

「小学生からお金のことを考える会」というイベントも主催されているそうですね。

小屋はい。税理士さんと一緒に年に1回、夏休みの自由研究コンテストのような形で行っています。テーマは「学校に100万円あったら、何に使いたいですか」。子どもたちに自由研究として考えてもらい、優秀な提案を表彰します。
最優秀に選ばれた子どもたちには、翌年、実際にクラウドファンディングで100万円を目標に資金を集め、提案したプロジェクトを実現してもらうんです。昨年は200万円ほど集まりました。

塚本 素晴らしい取り組みですね。子どもたちの反応はいかがですか?

小屋驚くほど成長します。自分たちのアイデアを発表し、それが実現に向かう過程で、お金を出してもらった人たちへの責任感も生まれます。単に親からお金をもらって何かをするのとは全く違う体験になるんです。
また、人のこと、社会のことを考えるようにもなりますね。「自分たちを応援してもらうためには何ができるだろう」と考え始めるんです。そういった変化と成長の早さには、本当に驚かされます。

 

家庭での金融教育—親ができること

小屋塚本さんは小学生のお子さんがいらっしゃるとのことですが、ご家庭ではどのような金融教育をされていますか?

塚本特別変わったことはしていないんですよ。お小遣いを定額で毎月あげています。また、お母さんの手伝いをした時に少しお駄賃がもらえる仕組みもあります。ただ、お金の使い道についてはあまり口出しせず、自分で決めさせるようにしています。あとは、スーパーでの買い物の時、「予算200円の範囲で好きなものを買ってもいいよ」と言って、自分で計算させるような機会も作っていますね。それ以外は特別なことはしていませんが、子どもは私の仕事を通してお金の話に興味を持っているようで、YouTubeの動画を見たり、テレビ出演した時はその番組を見たりしています。

小屋私も4年生と2年生の子どもがいますが、同じような感じです。お小遣いは自分の好きなように使っていいと言っていて、もらった日に一日で使い切ってしまうことも経験のうちだと考え、怒らずに見守っています。

塚本そうですね。子どものうちは小さな失敗も含めて、たくさん経験させることが大事ですよね。大人になってから大きな詐欺などに遭って大きな損失が出てしまうと、命の問題にもなりかねませんから。そういった大きな失敗を防ぐためにも、子どものうちから様々な経験をさせることが重要だと思います。

 

金融教育とアドバイザービジネスの未来

小屋私たち独立系アドバイザーは認知度向上に課題感を持っていますが、金融教育の分野はいかがでしょうか?

塚本金融教育自体の認知度も課題ですね。多くの方が「金融教育=投資の話」と思っていますが、実際はもっと幅広い内容です。また、アドバイスにお金を払うという文化もまだ日本には根付いていませんよね?
小屋そうですね。こうしてコンテンツを発信していますが、私たちのような独立系アドバイザーの存在意義を伝えていく難しさはずっと感じています。

塚本アドバイザーの価値をどう伝えるかという点では、SNSなどを通じて自分の考え方やアドバイスのサンプルを示すことが有効だと思います。私もYouTubeやXでの発信を続けていますが、そこで「この人はこういう考えで、金融や経済について話してくれるんだ」と知ってもらい、講演会や本を通じて深く知ってもらうきっかけになればと思っています。

小屋視聴者からはどんな質問が多いですか?

塚本最近で言えば、特に投資を始めたばかりの方からは「相場が下がっている時は積立投資を止めた方がいいでしょうか」といった質問が多いです。トランプ政権後の市場の乱高下に不安を感じている方が多いのは自然なこと。ただ、私は長期分散投資を大切にしていますから、こういった時こそ「下がった時は安く買えるチャンスなので、方針を変える必要はないですよ」と伝えています。

小屋金融教育についての今後の展望についてはいかがですか?

塚本金融教育は特定の年齢層だけでなく、未就学児から高齢者まで、あらゆる世代に必要なものだと考えています。現在は依頼に応じて、講演、番組出演、教員向けの教材作成、一般の人向けの書籍の監修など、様々な形で情報提供を行っていますが、これからも活動の幅を広げていきたいと思っています。

小屋多くの方がお金との付き合い方を学ぶことは、社会全体にとっても大きな意義がありますね。

塚本そうですね。例えば、QRコード決済が普及しましたが、便利な反面、お金を使っている実感が薄れて無駄遣いしやすいというデメリットもあります。ただ、無駄遣いをする人もいれば、ほとんどしない人もいます。それぞれのタイプに合った使い方や注意点を伝えていくことが重要です。
そして何より、金融商品やサービスのメリット・デメリットを自分で判断し、自分の生活に合った形で活用できる力を身につけること。それが金融教育の究極の目標だと思います。

小屋運用の世界から金融教育の世界へ。塚本さんの転身は、より多くの人々の生活に直接貢献する道を選ばれたということですね。お話を伺っていると、その決断に大きな意義を感じます。

塚本ありがとうございます。一人でも多くの方がお金との健全な付き合い方を学び、自分の人生をより豊かにしていただければ嬉しいです。これからもそのサポートを続けていきたいと思います。

対談者プロフィール

  • 塚本俊太郎(つかもと・しゅんたろう)

    20年超外資系運用会社で勤務したのち、金融庁の金融教育担当として高校家庭科での金融経済教育指導教材や小学生向け「うんこお金ドリル」の作成を担当。現在は金融教育家として、金融リテラシーや資産形成について講演等を行う。
    慶應義塾大学総合政策学部、米国シラキュース大学大学院国際関係論卒業。
    NHK Eテレ「趣味どきっ! 今日から楽しむ“金育”」講師。
    YouTube「塚本俊太郎の金融リテラシーチャンネル」(チャンネル登録者1.2万人)
    NewsPicks ProPicker。

  • 小屋 洋一 (聞き手)

    小屋 洋一(聞き手)

    株式会社マネーライフプランニング(公式サイト) 代表取締役

    1977年宮崎県生まれ、東京育ち。2001年慶應義塾大学経済学部を卒業し、総合リース会社に入社。中小企業融資を担当した後、
    2004年不動産流通業を行うベンチャー企業に転職。営業、営業企画等を経験し、2008年に退職。
    同年にAFPを取得後、独立し、個人富裕層のアドバイスに特化した株式会社マネーライフプランニングを設立。
    2010年にCFP®を取得し、現在に至る。

    <所属・関連団体>

    <SNS>

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