【対談】「幸福学」の研究者、前野マドカさんと考える幸福感とお金の関係。人生に幸せを感じるためのいくつかのヒントとは?-前編 【対談】「幸福学」の研究者、前野マドカさんと考える幸福感とお金の関係。人生に幸せを感じるためのいくつかのヒントとは?-前編

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【対談】「幸福学」の研究者、前野マドカさんと考える幸福感とお金の関係。人生に幸せを感じるためのいくつかのヒントとは?-前編


UPDATE 2023.05.30

【対談】「幸福学」の研究者、前野マドカさんと考える幸福感とお金の関係。人生に幸せを感じるためのいくつかのヒントとは?-前編

「幸せなお金の使い方について考える」をテーマした対談企画、2回目のゲストは前野マドカさんです。慶應義塾大学大学院研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員として、夫であり、同研究科の教授でもある前野隆司さんと共に幸福学を研究しているマドカさん。

幸福学では「地位財」と呼ばれるお金やステイタスなど周囲との比較で満足を得られるような「財」で感じる幸せは、相対的で長続きしないと考えられているそうです。一方で、「非地位財」と呼ばれる、愛情や自由、といった本人の心的な要因で得られる幸せは絶対的で、長続きするとされています。

ある程度の資産は築くことができた。お金はあるけれど、今の自分は幸せなのか?
この先の人生を幸福なものにするには、何をしたらいい?

マドカさんが幸福学に出会うきっかけとなった出来事から始まり、お金と幸せの関係、死と幸福感、パートナーシップと自己肯定感のつながりなど、多岐に広がる話題を通じて、私たちの幸福について考えてみました。

 

対談者プロフィール

  • 前野 マドカ

    前野 マドカ

    EVOL株式会社(公式サイト) 代表取締役CEO

    EVOL株式会社代表取締役CEO。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科付属SDM研究所ヒューマンシステムデザイン研究室研究員。国際ポジティブ心理学協会会員。サンフランシスコ大学、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)、子育てのヴィジョンを考える会などを経て現職。PTA活動では、全国PTA連絡協議会会長賞受賞。著書に『ウェルビーイング』『ニコイチ幸福学』『月曜日が楽しくなる幸せスイッチ』など。

  • 小屋 洋一 (聞き手)

    小屋 洋一(聞き手)

    株式会社マネーライフプランニング(公式サイト) 代表取締役

    1977年宮崎県生まれ、東京育ち。2001年慶應義塾大学経済学部を卒業し、総合リース会社に入社。中小企業融資を担当した後、
    2004年不動産流通業を行うベンチャー企業に転職。営業、営業企画等を経験し、2008年に退職。
    同年にAFPを取得後、独立し、個人富裕層のアドバイスに特化した株式会社マネーライフプランニングを設立。
    2010年にCFP®を取得し、現在に至る。

    <所属・関連団体>

    <SNS>

 

ハーバード大学前の公園で、「あなたの夢は?」と聞かれて始まった幸福学の研究

小屋マドカさんは、慶應義塾大学大学院付属のシステムデザイン・マネジメント研究所で研究員をされています。パートナーの前野隆司さんは同研究科の教授で、お二人は幸福学(Well-Being Study)の研究と実践を進めるご夫妻として知られています。
夫の前野さんについては、工学系の研究者から幸福学に目を向けていった過程がさまざまなメディアで語られていますが、マドカさんが幸福学に取り組まれることになったきっかけはあまり世に出ていないようなので、改めて教えていただけますか?

前野私のターニングポイントは、夫がハーバード大学に客員教授で行っていたときにやってきました。当時、私は0歳と4歳の子どもを連れて一緒にボストンに住んでいたんですけど、日課は大学の前の公園で子どもたちを遊ばせることでした。夫が仕事を終えて出てきたら一緒に帰ったり、買い物に行ったり、そんな時間を過ごしていたんです。

前野さんの話している様子

小屋専業主婦的な?

前野そうですね。外資系企業での仕事を辞めてからは、子育てに専念していました。その公園には世界各国、国籍も肌の色も違うたくさんの子どもたちが集まってくるのですが、ほとんどの親御さんは途中でベビーシッターと交代して自分は大学へ学びにいってしまいます。ずっと子どもたちと一緒にいるのは、私とメダリアさんという92歳のおばあさんだけ。そんな私を不思議に思ったのか、仲良くなったある親御さんから「あなたは朝から晩までここにいるけど、マドカの夢はなんなの?」と聞かれたんです。

小屋なんと答えるか難しい問いかけですね。

前野私はとっさに「この子どもたちを立派に育てるのが私の夢だ」と答えたんですよね。そしたら、誰もが「はあ?」という顔をしていて、「Sorry?」「Pardon?」みたいな反応だったんですね。

小屋「今、なんて言ったの?」と。

前野そう。だから、英語が下手でわからなかったのかなと思って大きい声で言い直したら、親御さんの1人が大笑いして、「それって母親としての仕事であって、あなた自身の夢じゃないでしょう」「あなたがそれを夢にするのはいいけど、子供がいい迷惑だよ」と言われて。
そうかも……とグサッときたところに、こう続いたんです。「生きている間に自分で何かを成し遂げること。それが夢だよ」「子育ては母親の1つの仕事だから、自分の夢はみつけたほうがいいよ」「私たちにはみんな夢がある。メダリアさんもそうだよ」って。

小屋92歳のおばあちゃんにも。

前野そう。それでメダリアさんに聞いてみたら、「私がここで毎日子どもたちを見ているのは、子どもむけの絵本を描こうと思っているから。そのための観察もしているんだよ」と。本当にハンマーでがーんとやられたみたいにショックを受けたんです。
私も私として何かに取り組みたいという意識になった頃、ちょうど日本に戻ることになり、長男は小学一年生になりました。周りのお母さんたちと話をしていると、塾のクラスが落ちちゃった、サッカーのメンバーに選ばれなかった、テストの点が……とか。自分の子どものできないところにばかり目を向けがちだったんですね。いいところがいっぱいあるのに、それは当たり前に思っていて、競争とか評価の中で子どもを育てながら悩んでいたんです。

小屋その感覚、よくわかります。

前野それで、アメリカで気づいたこと、夫の研究を間近で見聞きしながら学んだこと、それを伝えることで子育ての悩みが解決できるんじゃないかと思って、横浜市から委託金をいただいて「子育てのビジョンを考える会」を作りました。当時はまだまだ自分のやりたいことよりも家庭や子育てを優先しているお母さんがほとんどで。もちろん、家庭も子育ても大事だけれど、お母さんが充実感にあふれ、笑顔でいること、幸せでいることが、家族も笑顔にすると考えたんです。
ワークショップや対話を通じて、お母さんがイキイキと自分の人生を生きるにはどうすればいいのかを一緒に考え、活動していきました。

小屋そこからマドカさんの中で改めて幸福学への関心が高まっていったんですか?

前野そうですね。その後、PTA活動にも深く関わるようになり、地域にとどまらず、もっとたくさんの人を笑顔にするにはどうしたらいいのか? が私の人生のテーマの1つになりました。そんな話を夫にするうち、一緒に幸福学やウェルビーイングの研究をすることになったんです。

 

自分を理解したり、人生を振り返ったりする時間をつくっていますか?

前野夫が幸せの研究をはじめ、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』が世に出たのは2013年でしたから、やっと世の中に認知されてきたという印象です。

小屋10年くらいかかって「ウェルビーイング」という言葉が少し広まってきた感じなんですね。

前野そうですね。

小屋私たちはクライアントさんに幸せなお金の使い方を伝えたいと考えて活動しているんですけど、なかなか思いが広まっていきません。

小屋さんの話している様子

前野これからの日本はますます高齢化と少子化の問題が深刻になっていきます。お年を召した方もたくさんですし、十分な資産を築いて老年を迎えられる方も一定数いますよね。私も身近でいくつかの事例を見聞きしてきましたが、お金を貯めても、使う段階に行く前に認知症がはじまってしまったケースも多いようです。そうなる前に……というのは言葉として最適ではないかもしれませんが、本当に後悔のない金の使い方、お金との関係の築き方を知りたいというニーズは高まっていくと思います。
また、もっとシンプルに一個人として、認知症になる前に「私の人生、幸せだったな」と満足してほしいと思うんですね。私の母も認知症が出始めてしまって、改めてそう実感するようになりました。

小屋私のクライアントさんも含め、なかなか「自分の人生、幸せだな」と満足できている方は少ないように思います。これはなぜだと思いますか?

前野1つ大きな理由を挙げるとすると、皆さん、自分を理解したり、人生を振り返ったりする時間を持っていないんですね。私は幸い、ハーバードの公園で友人から指摘されて、その時間を持つことができました。
でも、忙しく働く人の多くは毎日が慌ただしく過ぎていき、60代、70代になったときに、「あれ?」と立ち止まることになります。その時点での健康寿命を考えると、残り数十年……。ある程度の資産があったとしても、自分がどうしたら幸せを感じられるのか?がわからず、迷いや、漠然とした不安に襲われてしまうのだと思います。

小屋それは私も同じかもしれません。

 

自分の「死」についてしっかりと考えてみたことがありますか?

前野以前、私は「世界幸福度調査(World Happiness Report)」の上位に入っている、オランダ、デンマーク、フィンランドの政府機関や学校、病院などへ視察に行きました。そこで知ったのが、日本との幸せの感じ方の違いです。
それぞれの国に暮らす人に「あなたが一番幸せを感じるのはどんなときですか?」と質問すると、老人も大人も子どもも、表現は違っても「愛する人、家族と団らんしているとき」と答えるんですね。私たち日本人はそう感じていても、それをなかなか一番の幸せとしてはあげません。どうしてかな? と考えたとき、自分の「死」について考える、向き合う時間に大きな違いがあったんです。

小屋死、ですか。

前野たとえば、フィンランドでは小学校一年生の時点で、日本ではタブー視される死について教わります。授業の中で塗り絵をするんです。今、ここで生まれて、育っていき、仕事をして、結婚して、子どもができて、最後は腰が曲がって人生が終わっていくというストーリーになっています。塗り絵をする過程で、いつか終わりが来る自分の人生や死を意識し、今をどう幸せに生きるかを考えるんですね。

前野さんの話している様子

小屋小学一年生から学んでいくわけですね。

前野フィンランドの子どもたちは、いつか人は死ぬという前提で今を生きています。私の祖父は浄土真宗のお坊さんでしたから、よく死について話してくれていましたし、武蔵野大学の学長である西本先生もイベントで「死してよし、生きてよし」という考えをお話しくださっていました。そのため、この前提はとてもしっくりきました。
将来の死を怖がっているよりも向き合ったほうが、今をしっかり生きなくちゃという意識が強くなりますし、親しい人との時間も大切に感じます。朝、起きて「今日も1日生きられる」と思えると、それだけで人生の幸せの感じ方も変わってくると思うんですよね。
ですから、自分の死を意識して、今を生きるというのが幸せにはとても大事なのだと思います。

後編へつづく

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